某家守近が女房武蔵野、出家を望むのこと

3/10
前へ
/10ページ
次へ
「そ、そ、そうだ!其処(そこ)女童子(めどうじ)!先程、少将様のお言葉を伝えに参ったと言っておったな。どうゆうことだ!」 「あー!もう、其処な、髭モジャ!うるさいんですよぉ!お陰で、徳子(なりこ)様が、びっくりして、乳の出がわるくなったのです!子猫ちゃんが、ミャーミャー鳴いて、大変なんですからぁ!!どうしてくれるんですかっ!」 乳の出、子猫ミャーミャー。 野次馬含め、検非違使達も、何の事やらさっぱり分からず。 「おや?どうゆうことです?」 武蔵野も、首を傾けた。 武蔵野は、延々と、ここで、目の前の荒武者の相手をしていた為に、屋敷で起こっていた事を、詳しく知らない。 「えっとですね。居なくなった徳子様は、縁の下で、子猫ちゃんを産んでいたのです」 「えええーーー!」 と、検非違使、野次馬が同時に叫ぶ。 ことの発端は、猫に、守近徳子と(あるじ)夫婦の名をつけ、その猫が居なくなったと、屋敷の者達が、大路(とおり)にて、主夫婦、否、猫の名を呼びながら探していたことにある。 ちょうど巡邏(みまわり)していた、検非違使が、少将夫婦が失踪したと思いこみ、屋敷へ詰めかけた。 しかし、応対する武蔵野は、頑として、主は在宅と、失踪を認めない。訳のわからない言い争いになり、今の騒ぎに至っているのだ。 さて、野次馬ときたら、言葉通り、北の方が産気付き、縁の下で、子を産んだと思い込む。しかし、そこで、子猫とは、いったいどうゆうことだと、驚きを隠せない。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加