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cat nap(7)
七
「香織は人殺しなんだよ!」
私の怒鳴り声に、ミケが驚いて目を覚ました。
「まだそうだと決まったわけじゃない。親友なのに信じてあげられないのか?」
「これを読んだら誰だってそう思うよ。香織はおかしくなってるの。普通なら、ずっと仲良くしてあげてた私にこんな仕打ちする?」
「なんだよ、その言い方。それじゃあ毒親と一緒じゃないか」
「大悟こそ、私を信じてくれないじゃん。香織のことかばってばっかりで、一体なんなの?」
「俺の母親も、毒親だったんだ」
「……え?」
「俺、結婚する前に風花に話したよ、母親がどんな人間だったか。毎日のように『あんたを生んであげたでしょ』って言われてさ。離婚するとき、父さんが俺を引き取ってくれたから生きてこられたんだ。それを忘れてる風花こそなんなの?」
暴れ回っていたミケは、パソコン画面の前で立ち止まった。
「私は小さい頃から一度も両親にほめられたことがなかった。テストで一番をとっても、絵画コンクールで優勝しても、かけっこで一等になっても。部活には入れないし、帰宅時間は決まってるし、友だちができてもそのせいで一緒に遊べないし。今の恋人の他に結婚の話が出た人もいたけど、母の反対と嫌がらせで結局ダメになった。
風花にはわからないよね。裕福な家に育って、両親も兄妹も揃ってて、大学に進んで、すぐに結婚して、旦那さんもいい人で。幸せを絵に描いたような人間だもんね。ずっと思ってたよ、一体どこが違うんだろうって。でもわからなかった。
出会ったときのこと覚えてる? 風花はいじめられてた私のことを助けてくれたよね。いつかその頃の風花に戻ってくれるんじゃないかって願ってた。けど、もう無理だよね。
これは私の復讐です。
風花は私のことを忘れられるかな?」
数日後、事件は思わぬ形で幕を閉じた。香織の父親が警察に出頭し、母親の殺害を認めたという。
一人きりのリビングにメッセージの通知音が響く。それは香織からだった。
「ミケを預けてくれてありがとう。連れてきたかったけど、ミケは私には懐かないの。ずっと私が世話してたのにね。
もう一つだけ言い忘れてたことがあった。あの日父を呼び出したのは、結婚の報告をしたかったから。母はもうすぐ施設に入ることが決まってたんだ。だからその後に家を出るつもりだったの。
倒れている母を見たとき、すごく不思議な感じがした。もしかしたら、無意識のうちに私が殺してしまったんじゃないかって思った。
予想通り、005から読んでくれたんだね。自分勝手な正義感に駆られて、その後も読んだでしょ。一人じゃ受け止められないから、旦那さんと二人で。風花は私が嘘をついてるって怒りながら、殺人犯だと罵った。旦那さんは風花の本当の姿を知ってどうしたのかな? それを確認できないことだけが残念です。
私はここから離れて、彼と二人で生きていきます。さよなら、風花」
それを最後に、香織からの連絡は途絶えた。
了
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