3人が本棚に入れています
本棚に追加
cat nap(2)
二
「大丈夫、じゃないよな。少しは話せる?」
大悟は私をリビングのソファーまで運んでくれた。もし一人だったら、きっと動くこともできなかっただろう。
「うん」
「ネットでもニュースになってる。おそらく、事件自体は間違いじゃないと思う」
「私、何も知らなくて……どうして香織がお母さんを?」
「決めつけちゃダメだ。まだ何もわからないんだから」
「そう……だよね」
「そういえば昨日、ミケのご飯が違うって言ってなかった?」
大悟にそう指摘されるまですっかり忘れていた。気力を振り絞り、なんとか立ち上がる。チェストの上にあるバスケットは、ミケとともに香織から預かったものだ。リビングの雰囲気に合うようにと、わざわざ買ってくれたらしい。
いつもとは違うメーカーの缶詰が四つと、カリカリが入ったタッパーが一つ。猫じゃらしとネズミのおもちゃが一つずつ。
全て取り出してみると、底にクリーム色の封筒が入っていた。封はされていない。まだ震えている手でそれを掴む。中には黒いUSBと数枚の一万円札が入っていた。
「見てみよう。きっと中に何か入ってるはず」
「でも……」
十年以上一緒に過ごしてきた香織のことを私は何も知らなかった。果たしてこの中身を覗く権利があるのだろうか。
私が葛藤している間に、大悟はリビングのガラステーブルの上でノートパソコンを広げてしまった。ミケはまた寝返りを打っているが、目覚める気配はない。
USBを開くと、ナンバリングされたテキストデータが入っていた。000で始まり、005まである。
「開いてみる?」
大悟が冷静に尋ねた。私は少し考えてから、言った。
「005を開いて」
「000からじゃないの?」
大悟は首を傾げているけれど、私は最後のファイルを読みたかった。どう締めくくられているのか、先にそれを知りたい。
「これは私の復讐です。
風花、こんなことになってしまってごめんなさい。もう出会った頃には戻れないんだね。私は生まれ変わりたくないから、きっと二度と会えないと思う。
もし、ネタバレが大好きな風花がこの005から読んでいたとしたら、000から004は開かないほうがいいかもしれない。私の地獄の日々を綴っただけだから。きっと一生の傷を負わせることになってしまうと思う。
いつもミケを見てくれてありがとう。私がいなくなったら、申し訳ないけどミケは動物病院へ連れて行ってくれる? 何かあったら引き取ってもらえるよう、先生に話をしてあります。
風花、このメッセージに気づいてくれてありがとう。私はそれだけで嬉しい。どうか私のことなんか忘れてね。
香織」
最初のコメントを投稿しよう!