cat nap(6)

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cat nap(6)

  六  大悟が黙って003のデータを開く。 「風花、いつもミケを預かってくれてありがとう。すごく感謝してる。たとえアウスタグラムの裏アカをバズらせるためだとしても」 「裏アカ?」  書き出しに、どきりと胸が鳴った。 「私が風花にメイクを教わった頃から始めたんだね。びっくり顔の口を開けた私がいっぱい載ってた。メイクが上手くなるためには客観的に自分を見なきゃ、って言いながら撮った写真でしょ?  先輩が偶然見つけてね。親友にメイクを教える優しい子、っていう背景がバズったんだろうね。でも、写真を載せるには私から許可を取るのがルールじゃない?」  どうやら香織は私の裏アカウントを知っていたようだ。ご丁寧にアカウント名まで綴られている。 「ミケはお腹にハートの模様があるから、さぞかし映えたんでしょうね。すごい数のいいねがついてる。おかしいと思ったよ、動物の話を振っても『かわいいとは思えない』って首を傾げる風花が、どういうわけか突然ミケを預かるって言い出して。  大悟さんの写真もあるけど、ちゃんと許可もらってる? 不満があるのなら、ちゃんと直接言ったほうがいいよ」  大悟はマウスを動かす手を止めて、私を睨んだ。 「どういうことだ?」 「裏アカくらい、誰でも持ってるでしょ」 「じゃあ、俺が見てもいいんだな?」 「ダメ!」  なんとかこのデータを消せないだろうか。しかし、マウスは大悟が握っている。パソコンは安いものではないし、壊してしまったら取り返しがつかない。  作り笑顔を浮かべた大悟が、またスクロールを再開した。 「風花はきっと、このUSBを壊そうとしてるよね。でも、一度ネットに上げたものは二度と消えないんだよ。誰かに与えた傷は、取り返しがつかないの。  最近気がついたんだけど、母と風花は良く似てる。私を自分の下に置くことで、自分を保って生きてるの。誰かを傷つけても謝らない。でも、自分が傷つくことは絶対に許さない。  私はね、風花。今の地獄から抜け出すためなら、他のどんな地獄だって受け入れるつもり」  大悟が004のデータを開いたところで、私は言った。 「こんなの全部デタラメ。大悟、信じないで。香織は嘘を言ってるんだよ」 「どこからがデタラメなんだ? わかるように説明してくれないか」  冷たい視線が、私に突き刺さる。大悟のこんな表情は見たことがない。 「説明なんかしなくてもわかってよ。私は大悟につくしてきたじゃない」 「じゃあなんで毒親のこと忘れてたんだ?」 「え?」 「きっと香織さんは風花に聞いて欲しかっただけなんだ。助けを求めたかったわけじゃない。だいたい、なんで香織さんにひどいことばかり言うんだ? 全部偏見じゃないか。裏アカに晒したりして、本当に親友だと思ってたのか?」
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