帰ってきた怪獣マン

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 富士山に怪獣が跨っている。    政府は、近隣住民の避難を行い、その地に自衛隊を派遣した。    その怪獣は人間の生活を見つめるが如く俯いていた。    また不思議なことに、その怪獣の体は既に傷だらけで身体のあちこちに爆撃を受けたかのような傷跡があった。    怪獣はゆっくりと立ち上がり、山中湖の方へと向かった。  そして湖面を覗き込み、咆哮した。    攻撃モーションである可能性を考慮した自衛隊は、軍事ヘリに備え付けられた機関銃の照準を怪獣に合わせた。    次の瞬間    怪獣は自身の喉を右手で掻っ切り、自殺した。  その様子を中継で眺めていた首相は   「またか」    と呟き、安堵と呆れの混ざった溜息を吐き出した。    富士山は怪獣の血により風情もへったくれも無い赤富士と化していた。      近年、飛来し自らの命を絶つ、そんな怪獣が増えていた。  日本人がある種の信仰心を持ち、敬ってきた富士山であろうと、怪獣からしてみれば、少し盛り上がった地面にしか見えないのだろうか。    一晩経って、また怪獣が富士山にやって来た。    そして同じように自殺した。    溢れ出す鮮血は、怪獣という存在を認識しなければ、見目鮮やかだ。  これがほぼ毎日繰り返されていた。   「この不景気にとんでもない災厄だな」  連日報道される怪獣関連のニュースを見ながら首相はそう呟いた。    近年、地球では行方不明者が続出し、星全体の生産性が低下したことにより、不景気が深刻化している。    日本も例外ではなく、この2年で1000人以上が行方不明となっている。    同時に未確認飛行物体の認知件数も5倍に膨れ上がっているため、国内のオカルト同好家たちは、地球外生命体による誘拐説を流布していた。    少しでも怪獣の死体を役立たせることはできないか。例えば、皮膚を構成する地球外の物質を我が国の技術革新に活かすことができれば、国の発展に繋げることができる。    そう考えた首相は、自殺現場に国立宇宙生物研究センターの研究員を派遣した。    好奇心旺盛な研究員たちは、すぐに死体へと群がり、サンプル採集を始めた。      3ヶ月後、研究員が首相のもとへ研究報告にやって来た。    その報告は、地球に存在しない新たな素材を求める首相にとって、非常に残念なものだった。      怪獣の身体は全て地球に存在するもので構成されていたのだ。   「大した成果はなかったということか」  首相は研究主任にそう言い放った 「そういう訳でもないですよ。新たに分かったこともあります」 「何が分かったんだ?」 「怪獣から採取されたDNAが行方不明となっている日本国民の1人と一致していました」  それを聞いた首相は空からやって来ては、うず高く積もっていく怪獣の死体を見上げながら 「帰郷というわけか」  そう呟いたのだった。
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