甘々ほろ苦の爆弾

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 ホイップクリームみたいな白い雲が、朝の空をおおっています。 「おはよ、千依(ちよ)」  なっちゃんが小走りに来ました。 「おはよう、なっちゃん」 「うわ、生徒会の人達、ヤバい」  中学校の正門前には、いつものように生徒会の人達がいます。  毎朝正門前で挨拶をする生徒会の人達。でも今日は、登校する生徒ひとりひとりが鞄とサブバッグを開け、生徒会の人達がチェックしているように見えます。 「なっちゃん、お菓子どうする?」 「あ、あれね。おばあちゃんにあげた」  なっちゃんのおばあちゃんは今日、お友達と日帰り旅行に行くのだそうです。なっちゃんが昨日つくったお菓子は、おばあちゃんがお友達に配るのだそうです。なっちゃんは、「おばあちゃんが材料費くれた」と満足そうです。  生徒会の持ち物検査をクリアーしたなっちゃんは、軽い足取りで玄関に向かいます。  次は私が持ち物検査される番です。 「おはようございます」  大人みたいに落ち着いた声が、私に、私なんかにかけられました。心臓が口からとび出しそうです。  あの生徒会長が、私なんかに挨拶してくれました。 「おはようございます!」  素直に嬉しいです。 「持ち物検査をします。鞄の中を見せて下さい」  私は、言われるままに鞄もサブバッグも開けました。 「これは?」  生徒会長は、サブバッグの中の紙袋を指差します。紙袋は真ん中がビニールになっていて、一目で中身がわかります。 「チョコクランチです」  私は答えます。 「ミルクチョコと、マシュマロと、ビスケットを固めました」  生徒会長が驚いたように目をまるくして、それから、優しい眼差しになりました。でも、落ち着きを戻して言います。 「あなたのクラスと名前は」 「1年2組、井俣(いのまた)千依です!」 「校則に基づき、没収します」 「はい! すみませんでした!」  チョコクランチは生徒会長の手に渡りました。  体が一気に軽くなった気がします。私は、なっちゃんを追いかけて玄関に向かいました。  恋なんて、わかりません。  つき合うなんて、わかりません。  憧れと、好きかも、という、ふわふわした気持ちだけです。  気持ち悪いと思われるかもしれません。  それでも、やらないで後悔するより、頑張ったことを思い出にしたいです。  持ち物検査が終わったら、きっと、本人は気づくでしょう。  チョコクランチの紙袋に貼りつけた、小さなカードとメッセージに。      🍫   🍫   🍫 『生徒会長 篠田瑛理様  こんなやり方で、ごめんなさい。  チョコを渡したかったんです。  生徒会長は素敵な人です。  これからも応援しています。  チョコクランチの人より』  【「甘々ほろ苦の爆弾」完】
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