雪に閉ざされた山荘での犯人探し

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 一階のリビングに、怯えた顔の五人が集まった。 「ちょっと外を見てきます。山田さんも一緒によろしいですか?」 「はい」  保成氏と執事の山田が上着を着て外に出ていった。  すぐに戻ってきた。 「凄く雪が積もっています」  保成氏が言った。すでに雪は止んでいる。 「保成さん、あの」  そう声をかけたのは盆太の隣の部屋の将一だった。 「昨日の夜、叫び声のようなものを聞きました。この家は部屋ごとの防音がしっかりしているのですが、それでも聞こえました」 「ほう。つまりお隣の部屋の盆太さんの悲鳴だったと? 何時頃ですかな」 「多分、一時過ぎくらいだったと思います。私は気になって他に物音がしないか注意していました。しばらくして、かすかに隣の部屋のドアが開いて閉まる音がしたので、恐々自分の部屋のドアを開けて廊下を見ました。すると、大柄な男が階下へと降りていくのが見えました」 「何か特徴を憶えていますか?」 「薄暗い常夜灯の下で見たので、他にこれといって覚えていません。私は怖くなって部屋にカギをかけ、ベッドに潜り込んでいるうちに眠ってしまいました」 「男は大柄だったとのことですが、具体的にどれくらいだったかわかりますか?」 「横幅はかなりありました。がっちりしていたのか、太っていたのかはわかりませんが、身長も私に比べればかなり高かったと思います。そんな体形から男の人だと思ったのです」 「この館の中では、あなたが一番、身長が高いのですか?」  保成氏は周りの男の人たちを見ながら尋ねた。 「私と盆凡さんが同じくらいでしょうか」 「あなたが見た男はもっと背が高かったのですね?」 「はい」 「奇妙な話ですな」  保成氏は考え込むようにして手をあごに持っていった。 「保成さん、その男なら私も見たことがあります」  そう声を出したのは盆太の息子、盆凡だった。 「何日か前の夜に、あまり眠れなくてトイレに行こうと起きて廊下を歩いるときに、階下で音がしたのです。見てみると、誰かが歩いていました。その時は山田さんかと思ったのですが、今考えてみると、もっと大きな男のようでした」 「その男の詳細な様子は覚えていますか?」 「その時は山田さんだと思って注意して見なかったので、それ以外のことはわかりません」 「そうですか。それもまた奇妙ですな。山田さん、この家の戸締りはどのような状況ですかな?」 「戸締りは・・・・、個人の部屋は別にして、その他のドアと窓は私が毎日、施錠してから寝ます。・・・・ただ、台所の入り口のドアのカギを二カ月ほど前に紛失してしまいまして、カギをかけられない状況になっています」 「それであなたはこの家の者でない何者かが、この屋敷の中を歩き回っていることを知っていましたか?」 「いえ、私は知りませんでした」 「では、えー、鈴木さんでしたかな? あなたは何か心当たりはありませんか?」  保成氏は、主人の死を目の前にして、青い顔でいる家政婦に尋ねた。 「私は・・・・、夜中に居間の辺りを誰かかが歩き回る音を、何度か聞いたことがあります」 「音? 足音ですかな? 誰の?」 「わかりません。二階から降りてくるような足音は聞きませんでしたし、山田さんならドアの開け閉めをする音でわかりますが、それも聞こえなかったので、この家にいる人の足音ではないと思います」 「うむ。ますます奇妙ですな。とにかく皆さんの話を総括しますと、得体のしれない大柄な男が夜中にこの屋敷に忍び込むことがあり、昨夜もその男がこの屋敷に入り込み、盆太さんを殺害したというわけですな」  保成氏は不安そうな表情でいる人たちを見ながら続ける。 「しかし先ほど、私が屋敷の周りを調べたのですが、この雪の中を誰かが来たり、出ていったりした痕跡は見当たりませんでした。つまり、ここにいる誰かが大男に成りすましていたということになります」  そう言うと、保成氏はまた一人瞑想するように考え始めた。 「事の真相は大体掴めました」  小考後に、保成氏は再び口を開いた。 「この雪ですから、警察はすぐに来られないでしょうが、殺人事件ですから、それでも今日中か、遅くとも明日には来るでしょう。彼らが捜査をすれば、真実はすぐに暴かれます。嘘を言っても無駄ですぞ」  保成氏はこの家の人々を見まわし、その中にいる殺人犯に訴えるように言った。
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