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「言うこと聞かないとつき合いやめるよ?」
高揚した気持ちが沈んだ。
(そこはもっとエッチに「お仕置きする」って言うとこじゃないのか……)
でも言い返せない。完全に惚れた弱みだ。
「……じゃあ」
拓は悔しさを抑えて上目遣いで彼を見た。
「キスくらいは、してよ」
「……もちろん」
ふっと笑った淳一の手が拓の顔を包む。
前に言われた通り、目を閉じて待つ。これは背伸びしなくても届いてくれる。
温かい感触が唇を包む。そっと食むように愛撫され、気持ちよさに体温が上がる。
教わったように舌先を出しわずかに開いた淳一の口を撫でてみると、彼のそれも優しく迎え入れてくれる。
少しぎこちなく絡み合い、やがて離れる。
「うん、上手……」
慈しむ顔で言われ、拓は嬉しいような切ないような気持ちになった。
名残惜しくて、淳一の袖を掴んだ。でも、彼は息を呑んだかのように表情を強張らせ、そっと拓の指を離す。
「ほら。おばさんたちも心配するし」
これ以上ごねてもわがままだと一蹴される。拓はため息を我慢して改札をくぐった。
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