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キスして。伝えて。
「この後……淳ちゃんの部屋行っていい?」
駅前に着き、拓は汗ばむ手で紙袋の持ち手を握り直して隣を歩く男に声をかけた。
端正な顔がこっちを向く。春の夜風にさらさらの茶髪が揺れ、涼しげな目が細くなる。
鼓動が速まる。勤め先のショップで来客を虜にする笑顔が、今は自分だけのものだ。
でも返ってきた答えは無情だった。
「よくないな。明日も学校だろう」
「いいじゃん。誕生日プレゼントって思って」
「それはもうあげただろう」
つき合って一カ月の恋人、谷淳一は拓が持つ紙袋に視線を投げた。中には、彼が見立ててくれた服が入っている。
「じゃ入学祝い」
「今さらか? もう五月なのに」
「……デートの最後はホテルかどっちかの部屋って決まってる」
「高校生は論外だ」
拓はむくれて口を尖らせた。
また子ども扱いだ。
「それに、もう時間も遅い。明日は早番だし俺もちゃんと睡眠は取らないと……」
「俺のほうが朝早いし」
「だったらなおさらだ。夜更かししてないで帰るんだ」
「でも」
「拓」
名前を呼ばれ、ドキッとする。
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