染みる

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 春風に吹かれ、踊り歓喜に沸く人々に反してアダルウォルフは今尚──  涙の跡が絶えない彼の頬を春風は撫でるが、哀しみを拐う事までは出来ないのだろうか。  風が様々な花の薫りを彼の鼻先に供してくる。  ラベンダー、アネモネ、パンジー。  どれも良い薫りだが、アダルウォルフの気を惹くには能わない。   「スノードロップ……」    艶を失ったアダルウォルフの瞳が窓の方に向けられた。  気力を呼び覚ます忘れられない薫り。  唯一彼が求める薫り。  指先から持ち上がり、徐々に身を起こす。  脇卓に置かれたベルが久しぶりに鳴らされた。  殆ど無意識の行動だった。  従者を呼びつけたものの何を命じて良いかと暫し考え込む。 「着替えを! 」  威厳には程遠いが声には張りがあった。
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