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哀しみに溺れていた日々。
ベッド脇には着替えと磨かれたブーツが毎日置かれていて、美しい主に身に付けて貰うのを待っていた。
真っ赤なベルベットのコートはもう必要無い。
ファー付きの黒革のコートも。
アダルウォルフは白レースのシルクのブラウスに袖を通し、黒のブリーチズ(半ズボン)にストッキングを重ね、ベージュ色のミュールに爪先を入れた。
赤毛の頃は逆立っていた髪は背に長く垂れている。
それでも髪を螺鈿細工の櫛で丁寧に梳き、前髪まで後ろに流すと高潔な獅子の威厳が現れた。
元々削げていた頬には窶れがあった。
瞳に輝きは戻っていない。
だが、アダルウォルフはミュールを履いた足を一歩踏み出した。
バランスを崩しながらも、従者の介添えを退ける。
扉が内側から王自身の手で開かれるのは久しぶりの事だ。
警護の騎士達が目を見開く。
ヒールがコツっと最初の音を響かせた。
慌てて顔を引き締め騎士達が後に続く。
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