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振動に逆らわず身を任せるうちに、自ら弾んでいるような心持ちになってくる。
ティオポルドが与えた熱い興奮が鎮まる代わりに小波が起こった。
アダルウォルフは何の為に森を目指すのか自分でも分かっていなかった。
動機なき行動もあると知る。
ただ思うが儘というのが相応しいのかもしれない。
ならば思いは何処からやってくるのだろう。
窓枠に肘を付き流れる景色を追いながら、取り留めの無い思考を巡らせる。
道端に咲く名も知らない花。
今、彼を突き動かすのは哀しみでもなく、高揚でも無い。
彼を導くのはスノードロップの薫り。
そしてベルクフォルムの森まで続く「アダルウォルフの涙」だった。
雪化粧を落とした森は艶やかな素肌に陽光を受けて輝いていた。
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