染みる

24/29
前へ
/165ページ
次へ
 同じ森でも、こうも趣が変わるものか。  外に関心が向かなかったアダルウォルフの内では、森はずっと寂しげな白い顔の儘だったのだ。  雪は殆ど消えていた。  胸を針が刺す。  変化は彼にとって未だ残酷だった。  宮殿までの広い道は馬車で、その先の細い道は徒歩で進む。  川は細く途切れそうでいながら先まで続いている。  光が降り注ぐリンデンバウムは神々しかった。  この大樹に向き合うのも幹に触れるのも、身を切られるような痛みを伴う。  それでも愛しい。  愛しくて切ない。  思い出に拐われてしまいたい。  今回の彼の行動を、哀しみと決別する為と将軍達は捉えていた。  だが、そうでは無い。  一歩一歩、大樹に迫るアダルウォルフはスノードロップの薫りに手繰り寄せられていた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加