染みる

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「やっぱり俺が熱くなり過ぎて──」 「違う。僕は簡単には溶けないって言ったでしょ?溶かしたのは熱じゃない。温もりなんだ」  ルーエの顔が近付き、唇を軽く重ねる。 「温もり──」 「感情をずっと閉じ込めてた。傷付かないように、生きる為に。肉体はあっても心が無ければ人じゃない。血も涙も凍り、人としての情熱を失った」 「ルーエ……」  アダルウォルフはルーエの頭を胸に寄せ、もう一度強く抱き直した。  スノードロップの薫りには、春の陽射しと風こそ相応しい。 「ずっと苦しかった。だから温もりを求めていたんだ。誰にも触れられないように尖って、凍てついた心の儘生きるくらいなら、愛を得て溶けてしまうなら、その方がずっといい。あの時、僕は幸せで──アダルと抱き合って、閉じ込めていた自分の情熱が溢れ出てしまったんだ。だからアダルのせいじゃないよ」
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