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噛み締める
指先に灯した炎を角砂糖に移すと、ポッとオレンジ色の焔に包まれ、崩れて溶けて、染みていく。
クリスタルグラスの縁に置いたスプーンの小さな穴から滴るそれが、全てを溶かしてしまう前に火酒をゆっくりと注ぎ足す。
氷の上に垂れたキャラメルの熱をアンバーの液が鎮め、銀のスプーンで回すと飴色の芳香が広がっていく。
波打つ火酒に浮かぶ氷から透明の靄が揺蕩うが、形は殆ど保たれた儘だ。
毛足の長い真っ赤な絨毯が敷き詰められ、暖炉にくべられた薪がパチパチと爆ぜていようとも。
グラスの縁に艶やかな唇を寄せる。
酒の甘味と苦味を舌で絡め取り、口内で結び付けてから喉の奥に流し込んだ。
体内に熱が広がりブロンズ色の瞳が和らぐも、彫像のような白皙に下りた影か、その表情を峻険に見せていた。
削げた頬と高い鼻梁に反して、唇は甘やかに膨らんでいる。
そして彼の赤髪は「炎の王」の称号に相応しく、燃え盛る炎の如く逆立っていた。
黄金のシャンデリアと燭台の炎を加えなくとも、この部屋は十分に暖かい。
寧ろ熱いくらいに。
深紅のベルベットのコートの袖口から覗く黒レースを噛み締め、ロイトブルク国王アダルウォルフは窓の外を睨んだ。
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