噛み締める

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 蒼白い月に照らされ、氷柱は宝石の瑠璃色に、雪原は銀色に煌めいている。  悔しいが、花咲き乱れる春、真っ青な空と輝く太陽の夏、紅葉の秋に匹敵する美しさだ。  国を疲弊させる雪の美しさが、何よりも憎かった。  この国に色を取り戻さなければならない。 「今回は俺も行く! 」  「……は……」  アダルウォルフ自ら出馬を表明した途端に 返答に乱れが生じた。 「ティオボルド──異論があるのか? 」  軒並み人形のように美しいが没個性の将軍達にも名前があり、ティオボルドは最も高い地位を与えられている。 「ナイン……」  王の麗しい視線を真っ向から浴び、ティオボルドは頬を染めて俯いた。 「返答が乱れていた! 」 「それは……アダルウォルフ様の美しいおみ足が雪道で汚れたらと……それに万が一危険があっては……」 「下らない!俺の足は地を踏む為にある。それだけか? 」 「Ja……出過ぎた事を……」 「出発は明日だ!気象博士等は寒気の発生源はベルクフォルムの森にあると言っていた」  ベルクフォルムの森は城の北方に位置する常緑針葉樹林だ。    
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