噛み締める

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「質問はあるか? 」 「ナイン」 「雪道だ。体力を消耗する。良く休んでおけ!」 「Ja! 」  いつものようにアダルウォルフの独壇場で会議も鞭一振りで終了した。  絞めたウエストからドレスのように広がるコートを翻し、アダルウォルフは姿を現した時と同じく騎士を従え颯爽と立ち去る。  王の居室に戻ると、テーブル上の飲み掛けのグラスに視線を置いた。  氷は小さくはなっていた。  だが熱の籠る部屋で、しかも火酒に浸されていながら未だ形を残し揺れている氷に官能を覚えた。  人為的な寒気によって齎される雪や凍結は、自然の気候によるものよりも溶け難いらしい。  直線的外観と内部の優美さを繋ぐ薔薇窓に視線を流すと、雪の勢いは和らいでいた。  雪はたまには止む事もある。  アダルウォルフは酒を一気に煽ると、グラスに残された氷を戯れに回し、しっとりと濡れた指先に舌を這わせた。  
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