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わいの名前は 涼石 夏生。
これは、あの頃(小学1年生)を思い出しての話。
ちょっと? 結構? 昔の話。
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「どろんこ雪だるま(雪の日【前編】)」
関西の海沿い、瀬戸内海や大阪湾に面したところはあまり雪が降らへん。降っても「みぞれ」みたいな雪が多く、ジャリジャリジャリジャリや。すぐ溶けて積もることがあんまなかった。そんな地域でも10年に1度ぐらいは雪が積もる事がある。
この日の朝、わいは小学1年生にして生まれて初めて雪が積もった光景を見たんや。
グランドが真っ白。
いや、グランドだけやない、校舎も建物も屋根も、木も植え込みも、車の道路も、みんなみんな真っ白に。白く濃く塗りつぶされた別世界が広がっていた。
「はぁー…… すっげー」
あの普段は冷静なねーちゃんが、「なっちゃん大変や」ってわいの元まで走ってやって来たんやから、相当なもんや。とは言っても実際は5、6cm程度しか雪は積もってないんやけど、普段雪の積もらんこの地域にとって、これは大事件なんや。
今日は運良く休みの日。わいは 急いで朝ご飯を食べると、友達のゆたやんを誘ってグランドに遊びに行った。
長靴で出鱈目な足跡をつけながら、二人でグランドを目指す。
ザクッ、ザクッ、ザクっ、ザクッ。
足音がオモロ。気持ちええ〜〜。ワクワクする。空は雲っとったけどウキウキや。サッカー少年のゆたやんも、さすがにこの日はサッカーボールを置いてバケツとスコップを持って来ていた。ゆたやんのバケツには、もうすでに雪が山盛り入っている。
グランドに着くと、もうすでに遊びに来ている子供達がいて足跡が無数に付いていた。
「あ、みかんちゃんや」
ゆたやんがグランドの反対側を指差した。
そこを見ると「みかん」こと宮地優奈とそのお父ちゃんも来ていて雪だるまを作っていた。
「みかん」は1年生の中で一番おっきい。食べるの早くて、足も早くて、いっつも わいと何かにつけて張り合ってる女の子や。(えーと、いつもわいが負けてることはここでは言わんとく……)
そして彼女はみんなから「みかんちゃん」と呼ばれてる。みかん食い過ぎで黄色くなってた時があるからや。本人もその呼び方が気に入っとって、可愛いから「みかんちゃんって呼んで」と自ら喜んで言っとった。
わいと、ゆたやんと、みかん。この3人は何かにつけて集まってよう遊んでた。
「あ、なっちゃん、ゆたやん」
みかんが雪玉を転がす手を止めた。隣にはベンチコートを着た みかんの父ちゃんがいて、これまたデカイ。なんせ十種競技のアスリートや。デカくてゴツいけど、ニコニコで夏休みには一緒に鬼ごっこをしてくれたんや(その辺の事は「その6話」をお読みください)。走り方とかも教えてくれる優しいおっちゃんや。
「お、久しぶり。おはよう」
「おはようございます」
わいと、ゆたやんは、おっちゃんのニコニコにちょっと引きつりながら挨拶した。
相変わらずのニコニコや。鬼ごっこした時は、このニコニコ顔が猛烈な勢いで迫って来るからちょっと怖かったんや……
みかんが転がしていた雪玉をペチペチと叩きながら言って来た。
「一緒に作らん? 雪だるま」
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