サブスクリプションキャット

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「月額6500円で猫飼い放題!」流行のサブスクねことはどんなサービス!?「専門家も注意喚起」  ニュースサイトに表示されたその文字を見た瞬間、胸にざわりとした感覚があった。  おそるおそるその記事を開く。  二カ月ほど前に開始されたサービスに、SNS上で様々な意見が飛び交っている。  世間を騒がせているサービスは「サブスクリプションキャット」(通称サブスクねこ)というもので、定額料金で猫が飼えるというもの。そのサービスについては批判の声もあがっている。  サブスクねこは、猫自体はもちろん、ケージや餌、おやつも含み月額6500円で猫を飼育できる。猫と相性が合わなかったら猫自体の交換も可能だ。一部のユーザーがこの「気に入らなかったら交換できる」というサービスを悪用していると噂になっている。その噂の発端となっているのが、こちらの動画だ。 【動画を再生する】  動画のサムネイルには、金に近い茶髪の女性が映っている。モザイクこそかかっているものの、見た目も化粧も派手なことがなんとなく感じ取れた。  再生をタップすると小さな丸がくるくると回る。派手な女性にインタビューをしている動画のようだ。 Q.サブスクねこを利用しているそうですが、このサービスはいかがですか? 「めっちゃいい感じだよー。餌とか猫砂とか自分で買うの大変でしょ? サブスクねこだとみんな届けてくれるから、楽だし。ほら、ウチって力ないじゃん?」  派手なマニキュアを塗った爪が、ひらひらと女性の口の前で舞う。 Q.なぜサブスクねこを利用するのですか? 「私ってほら飽きっぽいから。色々な猫飼いたいのよ。それにやっぱり子猫が可愛いからさぁ。ちゃんと成長したらバイバイ! てね」  甲高い笑い声が響くところで動画は止まる。胸にあったざわりとした感覚が燃え上がり、怒りへと変わった。信じられない。猫を、生き物をなんだと思っているんだ。  この感情のまま僕はこのニュースサイトの記事を共有することにした。記事の下部に置かれているSNSのアイコンを押せばすぐにこの記事をフォロワーに教えることができる。記事と一緒に自分のコメントを添えた。 「最悪なサービス。猫を使って金儲けして、猫をなんだと思っているんだろう。許せない。猫はおもちゃじゃない。#サブスクねこ」  投稿をしてすぐに猫好きのフォロワー達から続々とコメントが飛んできた。 「なにこれ……飽きたら交換? いくらなんでもひどすぎる」 「生き物を飼う責任感を何も感じない」 「俺もこれ読んだ。腹立つよな。猫の気持ち考えろよ」  猫のアイコンをしたフォロワー達が自分の意見を肯定してくれて、自分の感情が間違っていないということに安心する。猫のアイコンがこれだけ並ぶと、ちょっとした猫の集会みたいだ。  コメントを書き込んでくれた人達に丁寧に返信をしていくと、新しいコメントが届いた。今まで話したことのないアカウントだった。 「初めまして。サブスクねこ、酷いサービスですよね。このサブスクねこのサービス停止を求めるための署名活動をしています。動物愛護の団体にも協力を呼び掛けています。よければ、署名にご協力願えませんか」  一緒に添えられている署名ページを覗くと、すでに5000を超える署名が集まっていた。これは大事になってきたな。でも、あんなサービスが許されるはずがないし、当然のことだ。猫好きとしてこれは協力しないと。僕は署名に必要な情報を入力し、署名をする。コメントをくれたアカウントにも返信をする。 「初めまして。署名活動お疲れ様です。微力ではありますが僕も協力させていただきました」  ついでに、署名活動をしているアカウントのコメントを拡散した。これだけの反対意見があるんだ。すぐに炎上し、サービスを停止することになるだろう。#サブスクねこで色々な人の投稿を見る。なかにはサブスクねこを利用している人もいるようで、至る所で言い争いが起きていた。サブスクねこを擁護している人はきっと今までに猫を飼ったことがない人だろう。これだけの可愛い存在が近くにいれば、あんなサービスが間違っていることなんてすぐにわかる。 「そうだよなぁ、ソラ」  僕のことなど気にもせずに寝ているソラに声をかける。ソラは耳を少し動かしただけで、こちらを見ることもなかった。  猫のこんな自由気ままなところが、僕は大好きなんだ。
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