序章 syringa vulgaris

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 syringa vulgaris  二人のいじわるな姉達は、シンデレラがお城の王子様に嫁いだ後、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされました。  ハッピーエンドで終わる、童話シンデレラの最後は、このように締めくくられている。焼けた靴は、“スペインの靴”と並び、魔女審問の際に行われた最もポピュラーな拷問方法だった。  シンデレラの二人の姉が、どのような末路を遂げたかは訊くまでもない。何もかもが狂っていた。  男達の視線は好奇に満ちていた。少女とそう年の変わらない少年もいる。彼は顔を真っ赤に紅潮させながら少女に魅入っていた。  魔女といえども、生身の人間と何らかわることのない少女。むしろ、この少年の知るどの女性よりも、少女は清楚で美しかった。魅入ってしまうのも無理はない。  少年は猥雑な笑みを浮かべながら、広げられた少女の恥部に熱い視線を送っていた。そこは未知の空間だった。生まれて初めて間近で見たのだ。母親以外の女性の裸体。それも完全に無抵抗。  少年は近づいてきた。少女はうっすらと目を開けていた。真正面から、うつむきながら近づいてくる少年を視界に捉えていた。少年の目は潤んでいた。少女の瞳は対照的、虚ろだった。 「魔女の鉄槌。そうだろ?」  ひとりの老人が少年に刃物を手渡した。それは小型のナイフだった。そして少女の開かれた、桃の実のような色をした恥部を指差した。  どくん。少女の心臓が音を立て収縮した。辺りの人々にも聞こえたのではないかと思うほどに大きな音だった。少女は自分の胸が波打つのを感じている。失われたと思っていた感情が再び暴れ始めた。  少年はごくりと音を立てて唾を呑んだ。そして耐えきれずに「あうぅ」と恍惚の声を漏らした。次の瞬間の少年の行動に少女は唇を噛んだ。少年がズボンを下ろしたのだ。  少女は顔をしかめた。初めてまじまじと見たそれは、想像以上に大きく勃ち上がり、硬直していた。見渡せば他の男達も性器を露出させていた。穢らわしい。これが正直な感想だった。妻に促され、しぶしぶと下履きを下ろす者もいる。  少年はそのまま刃物をじっと見つめていた。襲いかかってはこない。他の男に動きを静止されているからだ。  少女の顔面に生暖かいものが降り注いだ。それは粘着があり臭かった。少女は唾液かタンを吐きかけられたのかと思った。しかし違うとすぐに理解した。  魔女の浄化が始まった――
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