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この冬、生まれて初めて雪が降った。
ふわりと舞う雪はとてもきれいで美しいけれど、一瞬でアスファルトに吸収されてしまう。地面は変わらず真っ黒のままだ。どうしてかそれがわたしをほっとさせた。
けれどそれでも雪は降り続けた。何日も何日も降り続けた。わたしの心が踊るときもわたしの心が沈むときも変わらず降り続けた。忙しさのあまり、降っていることを忘れている時でさえ、そんなわたしに知らん顔をして降り続けた。
ふと気づいたとき、地面は白で埋め尽くされていた。
真っ黒のアスファルトが真っ白になっていた。
さらに雪は降りつもる。白に白く降りつもる。気づいたらくるぶしが埋まっていた。焦った。さっきまであったはずの電柱や信号機や家やコンビニが跡形もなく消えている。見渡す限り白の世界だった。雪は止まることなく降り続けている。怖くなって思わず走った。無我夢中で走り続けた。どれだけ進んでも真っ白い景色が広がっていた。雪はわたしの膝の高さまで来ていた。もう走ることはできなかった。それでも進んだ。どうして良いかわからないからどこにあるかわからないゴールを目指して歩き続けた。腰が埋まった。足だけじゃ前に進めないから、両手を使って雪をかきながらそれでも進み続けた。しかし、体が限界を感じ始めた。どっと疲労が襲ってくる。もう進むことはできず、自分の周りの雪を退けるので精一杯だった。息が上がっている。でも空気が冷たくて思い切り息を吸うことができない。呼吸が浅くなり、目の前がぼんやりし始めた。ついに倒れ込んでしまった。自分の体の上に冷たい雪がつもってゆく。急激に体温を奪われてゆく。もう、ただただ、自分の視界に映る雪を見ることしかできない。自分の体に積もる雪を感じることしかできない。もうどうすることもできなかった。
親友の恋人を好きになってしまった。
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