僕の住む街に思う

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僕の住む街 不自由の無い、 綺麗な街 そして孤独な街 かつて粗舗装だった家の裏道 僕の自慢の陣地だった 春先には雪解け水が脇を流れ、 夏には小さな野草が群生した 秋にはコスモスも鮮やかに咲いた 裏道とは反対側の大きな舗装道路を渡ると、 異世界に足を踏み入れたように感じたものだ たった数十歩の小旅行 大きな空き地と見慣れぬ公園、 住宅と商店があり、 陣地から離れていく背徳感と、 不安感が好きだった 決して1人では行けない中規模デパート 傍には僕を守る人がいる 滅多に食べない洋食や、 ファストフードに胸が踊った 子供の国も大好きだった 海の香りと、 土の香りが混在する、 威勢の良い店主がいた小さな市場も、 今では鉄筋の塊になった 陣地の裏道のさらに奥の道は、 僕らの溜まり場 誰ともなく集まり、 遊びが始まる 公園への遠征もお決まり ボールを隣接する家の塀の中へ入れてしまい、 見つからないように侵入 怖いおじさんおばさんが名物だった 冬には色んな軒先の巨大な氷柱取り 新雪に埋まって抜け出せず、 泣いたやつがいた いつの時も、 日が落ちる頃には、 みんな暖かい場所へと帰る 四季があり、 愛情があり、 冒険があり、 新鮮さがあった 大好きな 街 だった その街はもう無い 存在はある それだけの街 無機質で、 愛が消え、 心躍らない街 今の僕には廃墟に等しい街 陣地の裏道は完全舗装、 道路脇もいつしか整備された 空き地には近代的な施設 住宅は増え続け、 商店は廃業 かつての人の息遣いが消え、 公園は雑草と錆びた遊具 中規模デパートは、 ありきたりなスーパーになった 僕が大人になったように、 街も大人になったのだろう 失ったものは共通してる 僕の住む街は、 側から見れば進化を遂げた ここから更に北の地には、 栄華を極めた街がたくさんあったという そして、 短い隆盛の後に、 原野へと還る運命を辿っていった 僕の住む街も、 いつかそうなるだろう 何世代先か、 何万年先か、 見当もつかない でも僕はそこに居たい 街が転生するように、 僕も一緒に生まれて育ちたい あの頃のように、 沢山の愛に包まれ、 沢山の自然に癒され、 心いっぱい弾ませて。
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