1

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 名前というのはめんどくさいもので、それが個体を識別するためのものであるにもかかわらず、逆に無関係なものどうしを結びつけることがある。  何が言いたいかというと、カラオケに行けば必ずと言っていいほど、吾輩が「中島美嘉」の曲を歌うことを期待されるのだ。  吾輩は「中島美嘉」の曲にこれっぽっちも関心が無いのに。  吾輩は、猫に生まれて人の世に住むこと16年、人間でいえば16歳になる。  このごろの猫というものは多感な年ごろで、他者と同一視されるのを嫌うものなのだ。  十人十色という言葉は猫にも当てはまって、目つきも鼻つきも毛並みも足並みも、他者と同じものは一つもない。  それなのに名前が似ているというだけで、その相手のイメージを押し付けられてはたまったもんじゃない。  そういうわけであるから、吾輩は徐にマイクを握り、口を大きく開け、「中島美嘉」とは微塵も関係のない、吾輩の持ち歌、「おジャ魔女ドレミ」のオープニングテーマソングを熱唱してやるのである。  オーディエンスの女子高生たちは何が起こったか分からず、3秒ほど唖然とし、続いてカラオケボックス内に大きな笑いが巻き起こる。  この瞬間が最高に気持ちいいのである  ♪大きな声でピリカピリララ♪  それにしても、ナカジマミカなんてありがちな名前、誰かと被るに決まっている。  有名シンガーになるなら「きゃりーぱみゅぱみゅ」くらい被らない名前にしてほしいものである。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加