(二)

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 汽車が走り出した。彼は車内から窓を開けて見送りの家族に手を振っていた。汽車が小さく見えなくなるまで、ホームでは万歳三唱が続いた。  身内だからこそ、それは愛と言うことができるのだろうけれども、赤の他人から見ると、少し気恥ずかしかった。もっと簡素に、簡単に別れの言葉を交わすだけでもいいのに、と思った。「もはや戦後ではない」と言われてもう十年以上経つのに、しかも今年はオリンピックが東京で開催されるのに、未だに戦時中のようなことをするということに違和感があった。でも、そんなふうに私も彼にエールを送りたかった。万歳三唱するのはさすがに恥ずかしくてできなかったけど。  そうして、彼は行ってしまった。 (続く)
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