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13
――順教寺の提案に乗ることにした和心たちは、秋葉原から出て神田にある新政府の施設へ向かうことにした。
秋葉原から神田までは国道17号中央通りまで出て、あとは真っ直ぐ進んで行けば到着だという彼女に従い、横にしていた秤藤をゴミ収集用カートに乗せて移動する。
カートにドラッグストアで手に入れた薬や食料を積んでおり、和心たちはそれぞれ交代で台車を押す。
国道17号の道路周辺ではまだ戦闘が行われていないようで、乗り捨てたであろう車があるくらいで道は舗装されたままだった。
これなら進みやすいと思いながら、カートを押す番になった和心の傍では心陽と月花が何やら揉めていた。
「おい、心陽。このままあの女について行ったら、オレたちも新政府に入れられちまうんじゃねぇか?」
「その可能性は高いでしょうね。でも、秤藤さんを救うにはあの人について行くしかないのではなくて?」
「そりゃそうだがよぉ……。新政府に入るくらいなら、サロン連合のほうがまだマシだぞ」
「そうかしら? わたしはあんな暴力を使って好き勝手振舞う人たちよりは、秩序維持を第一にしている順教寺さんたちのほうが良いと思いますけど」
聞き耳を立てる和心。
どうやら月花は、自分たちが新政府の施設に到着したら、そのままなし崩し的に順教寺の仲間に入れられてしまうことを懸念しているようだ。
しかも月花がサロン連合の肩を持っているところを見るに、あまり新政府に良い感情はもっていなさそうだった。
だが、一方の心陽は月花とは反対に新政府のことを庇っていた。
そんな心陽の態度から、彼女が新政府に少なからず好感を持っていることが透けて見える。
「あいつらは機械を国のリーダーしようとしてんだぞ? そんな連中なんかの仲間になれるかよ」
「だからって武器を持って戦う必要はないでしょう。反対するならもっと平和的なやり方があったはずです。元はと言えばサロン連合の人たちが新政府に攻撃を仕掛けなけらば、わたしたちだってこんな目に遭っていないんですからね」
「ちッ、相変わらず理屈っぽいな、心陽はよ」
「月花だって相変わらずですよ。言葉に詰まるとすぐに人格攻撃へとシフトするのは」
「人格攻撃なんてしてねぇし!」
幼なじみだと聞いていたのもあって、和心から見ると、二人の言葉には遠慮というものがなかった。
和心はそんな二人を見ながらカートを押していると、横になっている秤藤の傍にいるハリネズミのハックルベリーに視線を向ける。
これまでの移動や争いで疲れているのだろう。
ハックルベリーは、薬局に着いてからはずっとスヤスヤと眠っている。
「ハックルベリー……。あたしには、どっちがいいとかわからないよ……」
眠っているハックルベリーの顔を見て、誰にも聞こえないような声で呟いた和心。
当然、眠っているハリネズミからの返事はない(起きてても喋れないが)。
和心は今口にしたように、新政府だろうがサロン連合だろうが、自分たちがどちらに入ろうがどうでも良かった。
ともかくもう安心できる場所で横になりたかった。
真夏の炎天下ではなく、冷房もない場所ではなく、涼しい場所でゆっくり食事をしながらダラダラしたかった。
数時間前に聞いた――和心の心を震わせた秤藤の演説も、今の疲れ切った彼女にはどうでも良くなっている状態。
両親と祖母の死に、頼りにしていた秤藤が倒れ、もう和心は憔悴しきっていたのだ。
「そろそろ到着するぞ。男の様子はどうだ?」
国道17号が東京都道302号新宿両国線が交わる交差点を抜けると、順教寺が和心たちに声をかけた。
猫塚がカートに近づき、彼の容態を見る。
顔色はかなり悪いが、まだ息をしている。
一刻を争う状態ではあるが、生きているということは助かる可能性はあると、猫塚はまるで自分に言い聞かすように返事した。
「では急ぐとしよう。大丈夫、もうすぐだからな」
順教寺はそういった先には、神田駅が見えるビルの側に簡易的な施設が見えていた。
その周辺には新政府の自律型ロボット――白い花を思わせる外観から無数の触手が生えている蜘蛛のようなメイクピース·デイジーが四、五体ほど門番のように立っている。
これでやっと一息つける。
さすが新政府がここら周辺の拠点にしていそうなだけあって、防備もしっかりしていそうだ。
これならサロン連合も襲って来なそうだ。
和心がホッと胸を撫で下ろして間、順教寺はメイクピース·デイジーに声をかける。
「千代田区警備班の順教寺·律愛だ。秋葉原での戦闘中に一般人たちを発見した。重傷者もいる。早く手当を頼む」
順教寺がメイクピース·デイジーにそういうと、施設から黒ずくめの者たちが現れ、和心たちを中へと誘導する。
それから秤藤は医療班の人間らしき者たちに運ばれ、猫塚が付き添わせてほしいと願い出てついて行った。
「君たちはこっちだ」
そして、和心たちは順教寺に連れられて別の部屋へと連れて行かれた。
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