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10
「和心ちゃん! 猫塚さん! 屈んでください!」
次に別の少女の声が聞こえると、乱獅子たちへ弾丸の雨が降り注いだ。
乱獅子は仲間を強引に自分の前へと引っ張って、人の壁を作りながら防ぐ。
「おい、お前ら。なんでちゃんと見張ってねぇんだよ」
乱獅子が舌打ちをしながら仲間たちに文句をいうと、和子や猫塚から離れ、さらに後退していく。
仲間たちは慌てて応戦しているが、新政府の姿は見えず、弾丸だけが彼らに飛んできて次々に撃ち殺されていった。
「マジかよ? こりゃ一度引くか」
分が悪いと判断した乱獅子は、生き残った仲間たちに声をかけてサブマシンガンを撃ち返しながらその場を去って行った。
だが、和心からすれば一難去ってまた一難。
サロン連合の次は新政府かと、地面に屈しながらその身を震わせている。
もう安全なところなんてこの東京にはないのだと、和心が死を覚悟していると、ハリネズミのハックルベリーが彼女に向かって鳴き出していた。
銃声はまだ聞こえていたが、和心がふとハックルベリーの鳴き声がするほう見ると、そこには全身を銃器で身を固めている心陽と月花の姿があった。
「二人とも大丈夫ですか?」
サブマシンガンを撃ちながら、心陽が地面に屈している和心に声をかける。
彼女の隣では、手榴弾を放り投げ、同じく短機関銃を撃ち続ける月花が乱獅子たちを追い払おうとしていた。
そう――。
先ほど和心と猫塚の名を呼んだ声は心陽だった。
彼女たちがどうやって武器を手に入れたのかはわからないが。
どうやら新政府が戻って来たと嘘をつき、たった二人でそれを演出してみせたのだ。
「助かった……」
ホッと安堵した和心がその場で呆けていると、突然猫塚が彼女に喰って掛かってきた。
彼女は手足を拘束されているため、胸倉こそ掴めなかったが、今にも手を出さんかの勢いで、和心に自分の顔を近づける。
「おいあんた! なんでさっきアタシを殺らなかったんだよ!?」
「え……? だって、それは……」
和心はそれ以上言葉が続かなかった。
結果的に全員助かったが、実際に和心が猫塚を殺さなければ秤藤も彼女も乱獅子たちに始末されていたのだ。
猫塚にはそれが我慢ならない。
「あんたのせいでもう少しで彼が死ぬとこだったんだよ! わかってんのかッ!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……。でも、あたしにはそんなことできないです……。あたしたちが助かるために……猫塚さんを殺せない……」
「くッ!? 情けないガキだよ、あんたは。もういいから、さっさとこいつを外してくれ」
猫塚は泣いている和心を見て苛立ちながら、早く自分の手足の拘束を解くように言った。
先ほど乱獅子から渡されたスレッジハンマーで叩き、枷を破壊するようにと和心を急かす。
和心は言われたままスレッジハンマーを持って、恐る恐るハンマーを振り落とした。
猫塚の手足に付けられていた枷は金属でできた強固そうなものだったが、和心の力でも破壊できるほど脆かった。
枷から解放された猫塚は、和心にお礼をいうこともなく、カートに乗っている秤藤へと駆け寄る。
血塗れの彼を見て瞳を潤ませて、その傷だらけの身体にすがりつく。
和心はそんな猫塚を見て思った。
やはりこの人は秤藤を愛していると。
そんな猫塚を見て、二人は恋人関係だったのかと、和心は言葉にはできない損失感を味わっていた。
彼女は自分が殺されようが彼を守ろうとしたのだ。
そんな猫塚に自分が敵うはずもないと、失恋のような感情で胸が痛む。
「おーい、もう大丈夫だぞ。あいつらは逃げてった」
そこへ乱獅子たちサロン連合を追い払った心陽と月花が戻って来た。
二人は秤藤にすがりついている猫塚と、放心状態の和心を交互に見て、なんと声をかけていいかわからなそうだ。
「猫塚さん……。とりあえずここは危険です。それと秤藤さんの手当もしないと」
しばらくして、心陽が口を開いた。
猫塚はコクッと頷くと、涙を拭って秤藤が乗るカートを押し始めた。
その様子をただ眺めていた和心に、心陽と月花が声をかける。
「和心ちゃん、ケガはないですか?」
「どうやら大丈夫そうだな。結構ヤバそうな状況だったみたいだけど、みんな無事でなによりだ」
心陽が和心を抱きしめ、月花は安心させようとしているのか、穏やかな笑みを浮かべて彼女たちの無事を喜んでいる。
そんな彼女たち二人に、ハックルベリーがピピピッと小鳥がさえずるように鳴いていた。
「おッ! 忘れてた忘れてた。あんたも生きててよかったよ、ハックルベリー」
月花が地面で鳴いているハックルベリーを拾って、ハリネズミの指定席である和心の肩に乗せる。
「二人とも、ありがと……。あたしは大丈夫だよ……」
弱々しく答えた和心。
その目の焦点はあっておらず、喚いてこそいないが、彼女の頬には涙が伝っている状態だった。
和心が無理をしているように見えた心陽と月花だったが、今は気にかけてはいられない。
一刻も早くこの場から去ろうと、まるで幽霊のようにフラフラしていた和心の背中を押して、先に歩き出した猫塚の後を追った。
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