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12
烈火のごとく怒り出した猫塚は、心陽から拳銃を奪って彼女たちが肩を貸している女性に銃口を向けた。
どうやら二人が連れてきた女性は新政府の人間のようだ。
たしかに和心たちや乱獅子らサロン連合のようなカジュアルな服ではなく、白い軍の制服のような格好だ。
女性の服は見た目からして新政府の人間だとわかるものだった。
「ああ~だからこうなるって言ったんだよ。こんな女、放っておけって言ったのにさ」
大きくため息をつく月花。
こうなることを彼女は理解していたのか、呆れながら心陽のほうを見ている。
「待ってください猫塚さん! この人もケガをしてるんです! 治療してあげないと!」
心陽は女性に銃口を向けた猫塚に声をかけた。
だが、猫塚は彼女の言葉を聞いてさらに顔をしかめる。
「なんでこいつを助けなきゃいけないんだよ! アタシらは新政府とサロン連合のせいでこんな目に遭っているのに!」
「それとこれとは話が違います。傷ついた人がいたら助ける。きっと秤藤さんだって、わたしたちと同じことをしたはずですよ」
秤藤の名を出された猫塚は、その身を震わせると渋々銃を下した。
そして、勝手にしろと言わんばかりに背を向けて、再び秤藤を寝かしている簡易ベットのほうへと歩いて行く。
ホッと安堵した心陽は、共に肩を貸していた月花と和心に声をかけて女性の手当てを始めた。
意識は失っていたが、女性に大きな外傷はなく、擦り傷の消毒と包帯を巻くくらいで済んだ。
おそらくは戦闘中に頭を強く打って倒れたのだろう。
和心たちは医者ではないので詳しいことはわからなかったが、出血も大したことなかったでひとまず安心だと思われた。
「うぅ……ここは……どこだ……?」
治療後、心陽と月花が連れてきた女性が目を覚ました。
和心が声をかけようと近づいた次の瞬間、女性は突然彼女の首に手を回して怒鳴り上げる。
「動くな! 動いたらこの娘の首をへし折るぞ!」
「ちょッ!? なんですかいきなり!?」
「こうなるのかよ。やっぱ助けなきゃよかったな」
女性が和心を人質にして声を張り上げると、心陽は止めようとし、月花がボソッと愚痴を呟いた。
和心の首を締めながら女性は辺りを見回す。
すると彼女は感情的になっていたようだが、その表情が次第に冷静なものへと変わっていった。
「サロン連合の者ではないのか?」
「違います。秋葉原へ来たらあなたが倒れていたので、ここへ連れてきたんです」
心陽がそう言葉を返すと、女性は和心を解放した。
自分の頭に包帯が巻かれていることと、この場を見て状況を心陽の言っていることを信じたのだろう。
すぐにその頭を下げて彼女たちに礼を言う。
「申し訳ない。どうやらこちらの早とちりだったようだ。ところで君たちは?」
「あんたらの敵だよ」
女性が和心たちに訊ねると、そこへ猫塚が会話に入って来る。
彼女は寝ている秤藤のほうを向いたままだったが、冷たい言葉を続ける。
「アタシらは新政府にもサロン連合に入ってない人間だ」
「それが本当なら私は敵に救われたのか……。くッ!」
猫塚の話を聞いた女性は、側にあった包帯を切るためのハサミを手に取った。
そして、それを自分の喉元へと突きつける。
自殺するつもりだったのだろうが、和心が慌てて彼女の手を掴んでそれを止めた。
「なにをするの!?」
「えーい離せ! 敵に救われておめおめと生きていられるか! 新政府の人間は生き恥などさらさん! 今すぐ死んで汚名を注ぐのだ」
「やめて! やめてよ! もう……人が死ぬところなんて見たくない!」
和心は女性を止めながら涙を流していた。
見ず知らずの少女が泣きながら止める姿に何か思うところがあったのか。
女性はそっとハサミを手放すと、床に腰を下ろしてあぐらを掻きながら両腕を組んだ。
場に沈黙が流れる。
薬局内には、ただ和心のすすり泣く音だけが響くだけだった。
「その男……かなりの重傷のようだな。長くは持たなそうだ」
しばらくして、女性が口を開いた。
彼女は背を向けている猫塚の前で寝ている秤藤に気が付いたようだ。
「あぁ、あんたらとサロン連合の連中にやられたんだ」
冷たく返事をした猫塚に、女性は少し動揺しながらもある提案をした。
秋葉原から神田まで行ければ新政府の施設がある。
そこでならば男を医者に診せてやることができると。
その話を聞いて、和心がその身を女性へと乗り出した。
「本当! そこまで行けばちゃんとした治療が受けられるってことなの!? 秤藤さんが助かる!?」
「あぁ。だが、すでにサロン連合の者らに襲撃されてしまっている可能性もあるが、もし無事ならば、私が必ずその男と君らの保護を約束しよう」
女性の話によると、秋葉原の戦闘はサロン連合の勝利だったようだ。
苦虫を嚙み潰したよう顔をしながらも、女性は秤藤を救える可能性はあると話し続けていた。
そんな彼女に猫塚が振り返って言う。
「どうしてそんなことしてくれるんだ? アタシらはあんたらの敵だって言っただろ?」
「こちらは命を助けられた身だ。それ相応のお返しをしなければならんだろう。でなければ敵に塩を送る真似などせん」
「そいつは義理堅いね」
そういった猫塚の表情は柔らかいものへと変わっていた。
それは、秤藤が助かる可能性が出てきたからだろう。
和心や心陽、月花たちの顔を明るくなっている。
女性は床から腰を上げると、彼女たちに言う。
「ふん、この順教寺·律愛。たとえ敵であろうと借りは絶対に返す」
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