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14
施設内にあった部屋は個室で、まるでビジネスホテルの一室のようになっており、中にはシングルベットとシャワールームまであった。
順教寺は和心、心陽、月花三人に、浴室で体でも洗うと言うと、すぐに部屋から出て行く。
「どこ行くんですか?」
「君たちに何かまともなものを食べさせてやりたいと思ってな。私も別室にある浴室で汚れを落として来る。シャワー後に食事にしよう」
心陽に訊ねられた順教寺はそう答えると、彼女に笑みを浮かべて部屋を去って行った。
和心は最初こそ新政府の人間だと聞いて、順教寺のことを怖い人間だと思っていたが。
彼女の気遣いと笑みを見て、その善良さに心を打たれていた。
そして、こう考える。
思えばサロン連合の男――乱獅子·猛も、彼の仲間が問答無用で乱暴しようとしたときに助けてくれた。
疑いを晴らしたいなら、敵ではないと証明したいなら、猫塚を殺せと言ってきた乱暴な面はあったが、彼なりに筋が通っていた気がする。
新政府だとかサロン連合だとかは関係なく、話してみれば良い人は多いのではないかと、和心は眠っているハックルベリーを抱いて微笑んでいた。
「ほら和心。にやけてないでシャワー浴びようぜ」
「え? みんなで入るの? ってなんでここで脱いでるのッ!?」
着ていた服をガバッと脱いで下着姿になった月花。
和心がそんな彼女に驚いている傍では、心陽が呆れている。
「月花、はしたないですよ」
「あん? 別にいいじゃねぇか。今はオレらしかいねぇし。いいからさっさと汗を流そうぜ。気持ち悪くってしょうがねぇ」
月花はそういうとブラジャーとパンツも脱いで浴室へと向かっていった。
心陽は彼女が脱ぎ捨てた下着を拾って、やれやれとため息をつきながらその後を追う。
「和心ちゃんはどうします? 一緒に入りますか?」
「い、いや、あたしは後でいいよ」
「そうですか? では、お先に入らせてもらいますね」
当たり前のように一緒にシャワーを浴びに行った月花と心陽。
和心は二人はいつも一緒にお風呂に入っているのかと、口を大きく開けて驚いていた。
だが、幼なじみとはこういうものなのかもしれないと、適当に理由をつけて納得することにする。
その後、二人がシャワーを浴び終え、和心もハックルベリーと汗を流し終わると、部屋には順教寺が食事を持ってきていた。
炊いた米とカレーシチューの乗ったプレート。
ちゃんとした手作りの料理だ。
それからグラスに入った飲料水もある。
「では、和心も来たことだし、皆で食事にしよう」
部屋にあった簡易テーブルを出して、和心たち四人で向き合いながら食事を始める。
和心は特に食欲はなかったが、食べておいたほうがいい思ってカレーを口に運んでいた。
すると、身体を洗っても寝ていたハックルベリーが、カレーの匂いで目を覚ます。
ハックルベリーは空腹なのか、和心に向かって何かをねだるように鳴いていた。
順教寺はハリネズミ用ではなかったが、ペットフードを用意していたようで、プレートにそれを乗せ始める。
「モルモット用のシリアルだが、何か問題はあるか? 正直ハリネズミを飼ったことがないからわからないのだが?」
ハリネズミは、食虫目ハリネズミ科ハリネズミ亜科に属する動物だ。
食虫目は原始的な動物でハリネズミのほかにはモグラやトガリネズミ、テンレックなども同じ仲間で、主に昆虫や軟体動物などの無脊椎動物を食べる。
一方、見た目が似ているヤマアラシはヤマアラシ亜目(テンジクネズミ亜目)に属する動物で、モルモットやチンチラの仲間である。
和心はハックルベリーがなんでも食べることは知っていた。
実際に空腹時に与えれば、人肉すら食べるだろう。
代用品として、キャットフードやドッグフードを与えることもできるのだが、これらは魚系の物もあるので注意が必要だ。
脂質を抑え、必要なタンパク質を取れるものが望ましいことを知っていた和心は、シリアルならば問題ないと順教寺に答えた。
「さあ、お食べ。これはお前が食べても大丈夫だよ」
順教寺に渡されたプレートを床に置いて、和心がハックルベリーにそういうと、ハリネズミは一心不乱に食べ始めた。
余程空腹だったのだろう。
だが、和心の了解を得るまで食べようしなかったことから、このハリネズミと彼女の信頼関係がうかがえた。
カリカリとシリアルを頬張るハックルベリーを見て、心陽も月花も笑みを浮かべている。
順教寺もまた、持ってきた食事に問題がなかったことに安心し、嬉しそうにしていた。
「三人とも、食べながらでいいから聞いてくれ」
そして、順教寺は表情を真剣なものへと変えて話を始めた。
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