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順教寺(じゅんきょうじ)の話は、和心(わこ)たちを新政府に迎え入れたいというものだった。 このまま当てもなく都内にいても、サロン連合との戦闘に巻き込まれて命を落とす可能性があるため、彼女たちの身の安全を考えての提案だ。 元々順教寺が千代田区周辺の警備の任務には、彷徨っている一般人の救出も入っているらしい。 和心は渡りに船だと思っていたが、彼女の話を聞いて、月花(げっか)が食事をする手を止めて顔をしかめる。 「なんでそういう話になってんだよ?」 そして、声を荒げる。 明らかに敵意を持った態度だ。 「ちょっと月花。今は食事中ですよ」 「心陽(こはる)はちょっと黙ってな。オレはこの人に言いたいことがある」 それから月花は新政府のやり方に文句を言い出した。 御茶ノ水や秋葉原で自分たちや秤藤(びんどう)と猫塚の仲間を襲ってきたのは、順教寺たち新政府だ。 都内で暴れているサロン連合の鎮圧は理解できるが、どちらにも属さない人間たちまで攻撃するのは納得がいかないと。 順教寺はスプーンをプレートの上に置き、彼女に答える。 「それは彼らが私たちに攻撃をしてくるからだ」 順教寺は言葉を続ける。 我々新政府は、無抵抗の者にけして手を出さない。 むしろ都内で助けを求める者らを救ってきた。 御茶ノ水や秋葉原にいた者たちは、以前に新政府とサロン連合の戦闘中に襲撃してきたため、やむを得なく殲滅したと、順教寺は表情一つ変えることなく言う。 「あそこにいた者たちは全員犯罪者だった。私たちは都内の秩序を守るために、彼らを処分するしかなかったのだ」 「だからって皆殺しかよ! 銃器を装備した機械をけしかけてよ!」 「こちらも余裕がないのだ。サロン連合は日に日に力をつけている。それに御茶ノ水や秋葉原にいたような者たちも増えている。こちらが平和的に接しても向こうはそうではなく、仕方なしに」 「だからってちょっとやり過ぎなんじゃねぇの!? どうせ反抗的だなんだっていって、オレらも殺すんつもりなんだろ!?」 テーブルを強く叩いて怒鳴り出した月花。 そんな彼女に、順教寺はけして視線を逸らしたりせず、真っ直ぐ見つめて答える。 「……あの重傷の男や猫塚という女も、本当なら犯罪者として処分すべきなのだが、そこは私の一存で生かしている状態なんだ。わかってくれ……。私は君たちを犯罪者にしたくない。これだけは本当だ」 順教寺の言葉は真に迫るものがあった。 演技とは思えない凄味があった。 彼女は元々義理堅い性格なのだろう。 敵に捕まったと勘違いしたときに、すぐにでも自害しようとしたのは新政府への忠誠心。 そして、こうやって敵である和心たちを助けてくれていることで、彼女がどういう人間なのかがわかる。 場が凍り付く。 (なご)やかだった時間に沈黙が流れる。 そんな空気の中で、ハックルベリーがシリアルをかじる音だけが聞こえていた。 「もうよしなさい、月花」 「なんだ心陽。お前は黙ってろって――」 「いえ、黙りません。考えてもみなさい。少なくとも順教寺さんはわたしたちのためを思ってくれてるんですよ」 心陽が沈黙を打ち破ると、月花を説得し始めた。 たしかに心陽も新政府のやり方――どちらにも属さない人間を皆殺しにしたことには納得できない部分があるが。 これも都内の秩序を守るために仕方なくしていることなのだと、心陽は静かながら強い口調で言った。 そして、何よりもこうやって殲滅すべき自分たちのことを迎え入れてくれている。 順教寺のことを考えれば、彼女がいかに自分の立場を危うくしているかくらい理解できるだろうと。 「くッ!? それはそうだけどよ……」 月花は心陽に何も言い返せなかった。 その態度からして、彼女は新政府のやり方に疑問を持ちつつも、順教寺に対して感謝していることが理解できる。 三人の会話を聞いていた和心は、自分が何を言ったら良いのかがわからなかった。 だが話を聞いているうちに、新政府がここまで苛烈に、サロン連合やどちらにも属さない人間たちを攻撃する理由もなんとなく理解できるようになっていた。 和心の気持ちが秩序へと傾いていたそのとき、外から銃声と爆発音と共に部屋に衝撃が走る。 「なに!? なんなの!?」 「サロン連合の連中だな。君たちはここにいろ。私が対応する」 和心が取り乱すと、順教寺は彼女たちに部屋で隠れているように言って部屋を出て行った。 残された三人はもう誰も食事を続ける気にはなれず、さすがのハックルベリーもシリアルを頬張るのを止めて和心のことを見上げている。 もう嫌だ。 また戦いが始まるのかと、和心がハックルベリーを抱いて震えていると、心陽と月花が部屋から出て行こうとしていた。 「二人ともなんで!? 順教寺さんがここにいるように言ってたじゃない!?」 「武器もなしでこんなとこにいたほうが危険だろ? 和心も来い」 「月花に賛成です。わたしたちの持ってた銃は取り上げられてしまいましたからね。身を守るためにも、わたしたちも武器を持たねば」 二人はそういうと部屋から出て行ってしまった。
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