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残された和心(わこ)は独りでいるのが怖くて、ハックルベリーを抱いて彼女たちを追いかける。 施設内の廊下は、先ほど見かけた新政府の者たちは誰もいなかった。 先ほどの銃声や爆発音を聞いて迎撃に向かったのだろう。 和心は遠くに見える心陽と月花の背中を追いかけながら、抱いているハックルベリーに声をかける。 「もうヤダ……。なんでみんなそんなに戦いたがるんだろうね……」 今にも泣きそうな顔の和心を見上げ、ハックルベリーは悲しそうに鳴き返した。 それから心陽と月花が入った部屋に和心も入ると、彼女たちはそこにあった銃器を手に取っていた。 他にも手榴弾などがあり、心陽がそれをパンツのポケットに入れている。 「オレらが持ってたヤツじゃねぇけど、とりあえずこれでいいか」 「えぇ、わたしたちが使っていた物よりも小さくて軽いですし、お借りしましょう」 心陽と月花が手にしたのは、Vz 61――別名スコーピオンは、冷戦時代にチェコスロバキアのチェスカー·ズブロヨフカ国営会社で開発された短機関銃である。 銃床を畳んだ状態の全長27cmはサブマシンガンとしては最小クラス。 銃身6~7インチの45口径拳銃と同程度で、旅行用洗面用具入れにも似た専用ポーチや、携帯専用ホルスターに収めることができ、重量は1.28kgほどだ。 これは扱いやすいものを手に入れたと、心陽と月花は意気揚々とスコーピオンを手に取ると、他にも拳銃などにも手を伸ばしていた。 「ほら、和心も早く選べよ。つっても同じのしかないけどな」 「かなり軽量なのできっと和心ちゃんでも使えますよ。でも、撃つときは注意してくださいね」 「ああ、味方に撃たれたらたまんねぇからな」 心陽と月花は、当たり前のように和心にサブマシンガンを持つように言ってくる。 和心はこの二人は本当に自分と同い年なのかと思いながら、ただ渡されたスコーピオンを手に取っていた。 それから心陽と月花は和心に、サブマシンガンの撃ち方を教え始める。 二人の説明を聞きながら和心は、どうして銃の撃ち方を知っているのだろうと思っていた。 心陽と月花は秤藤(びんどう)や猫塚と会う前は二人でこの東京を生き抜いてきたのもあって、もう普通の中学三年生とは違っていて当然だった。 銃器の扱いも慣れている――いや、慣れているというよりは、使っているうちに覚えたのだろう。 しかも人を撃つことにためらいがない。 だが、和心は彼女たちとは違う。 都内に来る前――夏休み前の彼女はどこにでもいるただ女子中学生だったのだ。 卒業後にどこの高校に入るかや、アルバイトをしてお金を貯めて腕時計やモバイルグッズを買おうし、化粧に挑戦しようか悩んでいるような娘だ。 それがいきなり戦争に巻き込まれた。 まともな未成年者ならば怯んでしまっていてもしょうがない。 しかし、それでも心陽と月花は、和心に態度で言っているようだった。 生き残るためには戦わなければならないと。 それから武器を確保した彼女たちは、部屋を出て秤藤や猫塚がいるところへ向かうことにする。 とりあえず全員で合流して、最悪この施設から逃げることも考えなければと口にした心陽の提案だ。 一つひとつの部屋を虱潰(しらみつぶ)しに開け、幸いなことにすぐに秤藤と猫塚は見つかったが――。 「なんだよ……これッ!?」 その部屋の様子を見て月花が声を張り上げた。 心陽も声こそは出していないが、その表情は驚愕している。 二人の後に続き、和心も部屋に入ると、そこには手術室があった。 いくつもあった並べられた手術台の上には、秤藤や猫塚以外にも多くの人間が横担っている。 秤藤が手術台で寝ているのはわかる。 彼はここへ来る前に重傷を負ったため、順教寺(じゅんきようじ)の計らいのよって施設で治療を受けれるようになったからだ。 だが、どうして猫塚まで手術台に横になっているのだろう。 彼女は秤藤に付き添うといってついていっただけだ。 他の寝ている人間たちもそうだ。 とても秤藤のように外傷があるようには見えない。 これは一体なんのための場所なのだと。 「ここが何をするためのもんかはよくわからねぇが、やっぱ新政府なんて信用できねぇな」 月花が吐き捨てるように言った横では、さすがの心陽も表情をしかめていた。 一方で和心は、新政府を信じそうになっていた気持ちが、この光景を見たことによって恐怖感と嫌悪感に塗り潰されていく。 月花が口にした通り新政府が秤藤たちに何をしようとしていたのかはわからないが、これは寝ている人間たちに何かを良くないことを施そうとしている。 いや、もう処置は済んでいるのかもしれない。 三人が立ち尽くしていると、天井に付けられた医療機器が動き出した。 医療機器はまるで触手のようなものを出して、手術台に寝ている秤藤たちへと動かしていく。 一見して異様な光景に見えたが、どうやら横になっている者たちの経過を確認しているようだった。 触手のような金属のコードの先端に付いたカメラから、何かの動作音が聞こえていた。 「なんだ、医療用AIかよ」 「驚いてしまいましたけど、特に変なことはしてないようですね」 月花と心陽がホッと胸を撫で下ろしていると、医療用AIから伸びた触手のようなコードの先端から電気メスを出した。
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