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突然現れた乱獅子(らんじし)順教寺(じゅんきょうじ)はサブマシンガンを向ける。 当然乱獅子も彼女に持っていた軽機関銃を向けて、互いにいつでも撃ち殺せる状況となった。 「おい和心(わこ)! こんな女のいうこと聞くなよ! こいつはな、こいつらはな……裁くのは犯罪者だけとか抜かしているが、罪のない連中も殺しまくってんだ!」 そういった乱獅子は話を続けた。 新政府はAIを使って自分たちに都合が良いものを肯定し、都合が悪いものを否定している。 完璧ではないものを完璧だと思わせ、平等ではないものを平等だと思わせることで社会に認めさせているのだと。 「何が秩序だ! 何がコンピューターによる平等な社会だ! てめぇらが従うAIのせいで俺の兄貴は殺された! 一度刑務所に入ってたってだけでよ!」 「コンピューターは完璧なのだ。人間のように間違えたりしない。そうAIが判断したのだ。再犯する可能性がある者が裁かれて当然だろう。お前の兄はそういう人間だっただけのことだ」 「うるせぇ! 人の感情を論理で語るな! 兄貴は必死でやり直そうとしていたんだよ! 前科者ってハンデを負いながらも社会復帰しようとしていたんだ! それをてめぇらがな!」 乱獅子の激情に順教寺は理屈で返す。 たしかに新政府のやり方は理に適っている。 コンピューターは間違えない。 人間と違い、蓄積したデータによる限りなく現実に起こるであろう未来を予測できる。 一度罪を犯した者は再犯する可能性が高いのだ。 その芽を摘めば犯罪はたしかに激減するだろう。 だが、それで本当に良いのか。 和心は迷う。 「和心。先ほどのこの男の話こそ自分の都合だ。こいつはすべてを棚に上げている」 「あんッ!? 何いってんだてめぇ!」 すると、今度は順教寺が話を始めた。 彼女がいうに、サロン連合の上にいる人間たちはオンラインサロンを開き、叶いもしない夢を語り、人々から金を巻き上げている。 それが規模の小さいものならば問題はなかったが、インターネットを通じて世界中に日本を批判することを発信し、さも自分が神にでもなったかのように洗脳する。 それはテロリストが、人を従わせるのに宗教を使うのによく似ていると。 「実際にサロン連合は弱き者を絶対に助けない。人生に負けた者が悪いのだと嘲笑っている。社内的敗者に向かってお前が終わっていると(のたま)う。こいつらは自分たちと従う者だけが良ければいいという拝金主義者の集まりだ」 「そんなの当たり前だろうが! なんで身内でもねぇ連中まで助ける必要がある!? おんぶに抱っこの関係なんて気持ちわりぃだけだろ!」 「知恵をつけた地獄の餓鬼が! それ以上喋るな! 虫唾(むしず)が走ってしょうがない!」 「てめぇこそAIの言われた通り喋っているだけだろが! いいか! 機械は使うもんであって使われるもんじゃねぇ!」 互いに銃口を向け合った激しい舌戦(ぜっせん)。 順教寺も乱獅子も一歩も引かず、一触即発の膠着状態が続く。 そんな中で和心はさらに迷う。 どちらも正しい。 どちらも間違っている。 新政府に従ってさえいれば、どんなか弱い者でも生きることを許される安全な世界とはいえるが、AIの決めた規律を完璧に遵守するのは人間性の損失に他ならない。 少しでも秩序を乱した者、反抗する者に対しては裁きという名の処分が待っている。 一方でサロン連合の考えは自由を第一とし、それは弱肉強食の世界。 地球上の大半の人間にとっては文字通り地獄と言い換えてもよいだろう。 誰でも強ければ一目置かれるようにもなるだろうが、そんな人間は恐らくごく少数と思われる。 弱者は救済されないというとやり方は、けして肯定できるものではない。 金や力を持つ者、または権力者に気に入られれば生きていけるが、価値がなければ捨てられる。 力の果てにある自由――とても人の住む世界とは思えない。 「和心! この女を殺せ! お前もここで何が起きている見ただろ!?」 「聞くな和心! 君が撃つべきこの男だ! 強者のみが生きる世界など地獄でしかないのだ!」 状況を変えられるのは和心次第。 乱獅子も順教寺も必死で和心に訴えかけるが、彼女はどちらにも銃口を向けられなかった。 そして和心は身を震わせながら、二人へ声をかける。 「手を取り合えないの……?」 順教寺と乱獅子は互いに銃を向けたまま、和心へ視線を向ける。 和心は弱々しくだが、言葉を続ける。 「どっちも正しくて、どっちも間違っていると、あたしは思う……。うぅん、正直二人の言っていること半分も理解していないけど……。両方の良いところを合わせて悪いところをなくせばいいんじゃないの……?」
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