20

1/1
前へ
/22ページ
次へ

20

順教寺(じゅんきょうじ)さん! 乱獅子(らんじし)さん! また建物が崩れ始めている! 早くここを出ないとッ!」 和心(わこ)は天井が崩れ、建物全体が揺れる中で、まだ銃撃戦をしていた順教寺と乱獅子に向かって叫んだ。 今は争っている場合ではない。 すぐにでもこの建物から出ないと、瓦礫の下に埋もれてしまうと声を張り上げ続けた。 だが、二人からの返事はなかった。 鳴り響く銃声が、まるで和心の言葉を拒絶しているようだ。 「和心ちゃん……。もう行きましょう」 「このままじゃオレらもヤバいって……」 そんな和心に、心陽(こはる)月花(げっか)は二人のことを諦めるようと声をかけた。 こんな状況でも銃撃戦を続けているのだ。 自分たちがいくら訴えかけようが、二人は殺し合いを止めないだろうと。 心陽と月花にそう言われた和心は歯を食い縛る。 どうしてそこまでして戦うのだと思いながら、手をギュッと握る。 ハックルベリーが肩で鳴いている。 早く脱出しようと大きく鳴いている。 そして和心は手術室を後にした。 破壊された壁を通り抜けて廊下へと飛び出し、建物の外へと走り出す。 廊下の天井も崩れ始めていたが、彼女たちはなんとか外へと出ることができた。 和心らが建物の外に出ると、そこには新政府とサロン連合の人間たちの死体が転がっていた。 そんな光景の中で、新政府の自律型ロボット――メイクピース·デイジーが立っている。 メイクピース·デイジーはその白い花を思わせる外観から無数の触手が生え、その触手を足にして蜘蛛のよう動かし、和心たちほうへと向かって来る。 外装はかなり破壊されていたが、まだまだ戦闘は可能そうだった。 そして和心たちとの距離が縮まると、ゆっくりとした動作から、身体の下部にあったガトリングガンを撃ち始める。 「クソッ!? なんなんだよこいつはッ!?」 月花が叫び、和心たちは慌ててその場から逃げたが、メイクピース·デイジーは軋むような機械音を鳴らしながら彼女らを追いかけてくる。 「もうイヤだ……。もうイヤだよぉッ!」 喚きながら走る和心。 慌てて逃げた三人は銃器を持っていなかった。 もう逃げるしかない。 一難去ってまた一難。 せっかく建物から脱出できたというのに、和心たちは再び窮地に陥った。 「くッ!? このままじゃ追いつかれる! こうなったらあいつを倒しましょう!」 走りながら心陽が二人に声をかけた。 だが、武器もなしに一体どうやってと和心が返事をすると、月花が突然足を止めてメイクピース·デイジーのほうへと向かって走り出す。 「ちょっと月花ちゃん!? なにしているの!?」 「オレがあいつの注意を引きつけるからお前らがなんとかしろ! 心陽! なんか考えがあるんだろッ!?」 背中を向けた状態で駆けて叫んだ月花に、心陽は声を張り上げる。 「もちろんです! ですが月花! 絶対に死なないでくださいねッ!」 そんな幼なじみの叫びに、月花は親指を立てて手を突き上げて応えた。 それから戸惑う和心を連れ、心陽は走り出した。 一体どうやってメイクピース·デイジーを止めるのだと、和心が囮になった月花の心配をしていると、心陽が言う。 「これを使います」 そう言って心陽がポケットから出したのは、新政府の施設で彼女がサブマシンガンと共に手に入れた手榴弾だった。 その手榴弾の名はMK3手榴弾。 MK3は、M67のような破片手榴弾ではなく、攻撃手榴弾として設計されている。 すなわちTNT爆薬の爆発により発生した衝撃波によって敵兵の無力化もしくは制圧を狙った設計になっている。 金属片を広範囲に飛散させる破片手榴弾よりも危害半径が小さく、接近戦でも友軍を巻き込む危険性が低い。 水中で炸裂させても水圧によって兵士を殺傷することができ、いわば超小型の爆雷として機能するため、水中工作員などを殺傷ないし退散させるためにも使用されている。 また、建物の破壊などの発破作業にも使用されているものだ。 心陽は持ち出した手榴弾がMK3だとは理解していなかったが、これならば自律型ロボットを破壊できると考えていた。 持ち出した手榴弾は一つ。 心陽は月花がメイクピース·デイジーを引きつけている間に、こいつを投げつけると口にした。 「最悪破壊できなくても、もうわたしたちを追えないくらいまではできるでしょう。さあ、和心ちゃん」 「えッ!? あたしが投げるの!?」 「月花だけでは持ちません。わたしも囮になります。その隙を突いてください」 心陽はそういうと、振り返って月花とメイクピース·デイジーのいるほうへと走り出した。 そして駆け出しながら、立ち止まっている和心に声をかける。 「あなたならできる! だってあなたは、あの状況でわたしたちを助けてくれた勇気のある人なんですからね!」 そう声を張り上げた心陽は、そのまま走り去っていった。 残された和心は渡された手榴弾を握って俯く。 そんな彼女に向かって、肩に乗っていたハックルベリーが弱々しく鳴いていた。 「うん、そうだよ……。あたしは……あたしたちは絶対に生き残るんだ!」 顔を上げ、そう叫んだ和心もまた、メイクピース·デイジーがいる方向へと走り出した。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加