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06
「みんな! 大丈夫、大丈夫だから!」
その破壊音を聞き、部屋にいた他の者たちが慌て始めていたが、秤藤が皆に声をかけて落ち着かせていた。
彼の予想では、今この地下の上周辺で新政府の自律型ロボット――メイクピース·デイジーとサロン連合のメンバーが戦っているからだろうとのことだ。
秤藤は、静かにしていればそのうち音もしなくなるだろうと、仲間たちに笑顔を向けて声をかけ続けている。
和心は、そんな彼の姿を見てうっとりとしていた。
「やっぱりすごい人だよね。秤藤さんって……」
秤藤に送る彼女の視線は、誰が見ても恋に恋する乙女の眼差しだった。
たしかにいきなり起きた破壊音に怯えることなく、すぐに冷静に対処できるのは見事なことだが。
そのわかりやすい和心の姿を見て、心陽と月花は呆れるしかなかった。
「なあ、心陽」
「はい、なんでしょうか」
「大丈夫かな、こいつ……」
「たしかに、この状況下でここまで浮かれられることに少々不安にはなりますが、よくとれば前向きなのかと……」
「それ、よくとり過ぎじゃね? ほら、ハックルベリーですら呆れてるぜ」
月花の言う通り、和心のペットであるハリネズミのハックルベリーも二人と同じなのか。
和心の顔を見上げながら、いつもよりも低い声で鳴いていた。
さらにハックルベリーの身体――。
先ほどまで寝ていた全身を覆う針が今は立ち、文字通り針の山となっている。
これはハリネズミが狼狽えたり怯えている証拠だ。
ハックルベリーは、盲目的に秤藤に心酔する和心のことが心配で不安なのか。
それとも月花がいうように呆れているのかはわからないが。
ともかく今の和心に対して、あまり良い感情は持っていなさそうだった。
それから破壊音が止まり、皆がホッ安堵していると、今度はブーツの足音が聞こえてくる。
そのコツンコツンという足音は、次第にこの地下の部屋へと近づいてきていた。
しかも一人や二人ではない。
何人もの歩く音が重なって、次第にその音が大きくなっている。
皆が黙り、秤藤のほうへ視線を向ける。
すると彼は、呟くような小さな声で全員に武器を持つように指示を出した。
秤藤は上での戦闘で、新政府とサロン連合どちらが勝ったかはわからないが。
おそらくまだ敵が隠れていないかと、周囲を調べているのだろうと皆に話を続けた。
新政府、サロン連合。
どちらであっても戦闘は避けられない。
捕まって殺されるくらいならこちらも反撃にする。
秤藤はそう言いながら、部屋の隅にあった箱から拳銃やライフルなどを取り出し、次々に皆へと渡していった。
殺らなければ殺られる。
武器を持った男女の誰もが、その表情からそう言っているようだった。
そんな周囲の空気を感じ取り、和心は恐ろしくなって、その身を震わせていた。
ハックルベリーを両手で抱きながら、歯までガタガタと震わせて、今にも失神してしまいそうだ。
「よし、オレにも銃をくれよ」
「わたしも戦います」
だがそんな和心とは違い、心陽と月花も戦うと言い出した。
これには他の者たちも驚いていたが、秤藤はためらうことなく二人にも武器を渡していた。
「和心ちゃんもわたしたちと一緒に」
「そうだ。ほら、早く武器を手に取れ」
二人に声をかけられ、和心はどうしようと悩みながらも、結局は銃を手に取れなかった。
やはり銃で人を撃つなど自分にはできないと、縮こまって首を左右に振るだけだ。
そして、近づいてきていた足音が止まり、彼女たちがいた地下室の扉が開いた。
そこには黒ずくめの者たちが立っていて、全員短機関銃で武装しており、銃口を和心たちに向けながら警告する。
「我々は新政府の者だ。敵ではないというのなら武器を捨てて投降しろ!」
どうやら地上での戦いで勝利したのは、サロン連合ではなく新政府のようだ。
全身黒ずくめの者らは武器を捨てるように叫んだが、秤藤たちはこれが返事だと言わんばかりに発砲。
狭い地下に銃声が鳴り響き、部屋に入ろうとしていた新政府の人間たちを撃ち殺す。
「ここはもうダメだ。みんな脱出しよう。秋葉原まで逃げるぞ。そこにもシェルターがある」
そして秤藤が先陣を切って部屋を出て、彼の後に皆もついて行く。
銃撃戦はさらに激しくなり、けたたましい銃声と悲鳴が交じり合い、地下が血で染まっていった。
そんな状況の中、猫塚が震えて動けずにいた和心に気が付き、彼女に向かって声を張り上げる。
「ここで死にたいの!? いいからアンタもさっさと部屋を出るんだよ!」
秤藤に指示でもされたのだろうか。
冷たかった猫塚は縮こまっていた和心の手を強引に引いて、少し遅れて部屋を出て地上へと向かった。
だが、そこには知らない人間たちが転がっていた。
おそらく先ほどの戦闘で新政府に殺されたサロン連合のメンバーだろう。
死体はそれぞれ吹き飛んだ頭から脳漿が飛び出しており、腹から臓物を垂れた状態で、アスファルトがその血で真っ赤になっていた。
「こ、こんなのって……こんなのって……。うッ!? おぇぇぇッ!」
凄惨な光景を目の当たりにした和心は、その場で屈して嘔吐した。
先ほど口にした食べ物をすべて吐き出してしまう。
猫塚はそんな和心の頭をライフルで小突くと、まだ吐いている途中で無理矢理に立たせる。
「早く立て! じゃないと、すぐに連中が来る――!?」
猫塚が声を荒げた瞬間。
彼女の和心の目の前に、新政府の自律型ロボット――メイクピース·デイジーが現れた。
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