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――その後、和心(わこ)たちは新政府に捕らえられた。 猫塚(ねこづか)も仲間と散り散りなった状態で、しかもライフル一丁でガトリングガンを装備しているロボットに勝てる気がしなかったのだろう。 メイクピース·デイジーをけしかけ、その後ろから武器を捨ているように言ってきた新政府の人間の指示通りにしたのだった。 和心は特に拘束などはされなかったが、危険だと判断されたのか、猫塚のほうは口に猿ぐつわと手足には(かせ)が付けられた。 それから血塗れのアスファルトの上を歩いて、新政府の拠点がある大田区――田園調布まで向かうことになる。 「死ぬのはヤダ。あたしは何もしてないよぉ。お願いだから許してくださいぃ」 前後左右にを黒ずくめの者に囲まれながら歩かされ、泣きながら訴える和心だったが、新政府の人間たちは彼女のことを無視していた。 それからトラックの荷台に放り込まれ、御茶ノ水を出て神田、有楽町、新橋を抜けて和心と猫塚を乗せた車は品川へと入る。 ここで他の新政府の面々――トラックらと合流。 一度車を停めて、何やら黒ずくめの者たちは話を始めていた。 和心たち捕らえた者らのことを話しているのか。 だが、今の和心には漏れてくる声に耳を傾ける気力もなかった。 荷台には和心ひとりと、彼女の肩にしがみついているハリネズミのハックルベリーだけで、猫塚は殺されたのかまた別のトラックに乗せられているのかわからない。 拘束されていないため、逃げようと思えば逃げ出そうだった。 しかし、逃げようとすれば殺されると思った和心は、先ほどの死体だらけの光景を思い出し、ただ嗚咽(おえつ)を繰り返している。 「秤藤(びんどう)さん……。助けてぇ……助けにきてよぉ……」 家族を失い、唯一頼りにできると思った秤藤の名を口にする。 助けなど来ないことは理解しながらも、それでも和心は泣き言を口にする以外何もできなかった。 この後に自分がどうなるかを考えると、それだけで身体が震えてしまう。 そんな和心を宥めようとしているのか。 ハックルベリーは彼女の肩から優しく鳴き続けていた。 「おい、出ろ。早く出るんだ」 和心が悲観に暮れていると、突然黒ずくめの一人が声をかけてきた。 彼女は言われたまま荷台から降りると、その場を囲んでいた黒ずくめの者らに銃口を突き付けられる。 新政府の状況が変わったのか。 それから黒ずくめの者らによる尋問が始まる。 「お前はサロン連合の人間か? ならば言え。お前の仲間の居場所を」 「知りません! あたしはそんな人たちのことなんてぜんぜん知りません! あたしは今日東京に来たばかりで何も知らないんです!」 両手を言われたまま上げて、ただ泣き叫ぶ和心だったが。 当然許してなどもらえない。 黒ずくめの者たちは、次第に語気を強めて和心を追い詰める。 「見え透いた嘘をつくな。こんな状況で東京に来るバカがいるはずないだろうが。しかも、お前はまだ子供じゃないか。親がサロン連合のメンバーなんだろう」 「うわぁぁぁん! ちがうよ! あたしはお父さんとお母さんと一緒におばあちゃんに会いに来ただけなんだもん! 本当に何も知らないんだよぉぉぉッ!」 黒ずくめの者たちは、泣き叫ぶ和心を見て互いに顔を見合わせると、突然大爆発が起こった。 周囲に停まっていたトラックに爆弾が放り込まれたのか、その衝撃で和心の目の前にいた黒ずくめの者たちは吹き飛ぶ。 慌てて屈んだ和心が次に見たものは、先ほどまでサブマシンガンを自分に突きつけていた黒ずくめの者たちの死体だった。 「新政府の連中は全員殺せ! 皆殺しだッ!」 男の声を共に銃声が鳴り響き、和心は恐怖でその場に屈していると、ハリネズミのハックルベリーが彼女の肩から降りて鳴き始めた。 こっちだよとでも言いたいのか。 和心はナメクジのように這いずりながら、ハックルベリーの後に続く。 銃声と怒号と悲鳴がさらに激しくなる中で、和心がハックルベリーとその場から逃げていると、倒れている男の姿が目に入った。 それは秤藤だった。 かすかに意識はあるようだったが、腹や肩からは出血しているのを見るに撃たれたのだろう。 ハックルベリーは早く逃げようと言いたそうに鳴いていたが、和心は彼を放ってはおけなかった。 這いずりながらも彼に近づき、一緒に逃げようと声をかける。 「秤藤さん! 起きて! 起きてください!」 「和心ちゃんか……。早く逃げるんだ……」 気が付いた秤藤は身を震わせながらも起き上がり、和心に早くこの場を去るように言った。 だが、和心は彼を置いてはいかなかった。 自分よりも身体の大きな秤藤に肩を貸し、強引にでも連れて行こうとする。 「なにをしてるんだ……? 君だけでも早く逃げないと……」 「ヤダ! もうひとりはイヤなんだよ!」 和心は秤藤の言葉を拒否して連れて行こうとするが、当然彼女の力では支えられない。 始まった銃撃戦は激しさを増す。 このままでは二人とも殺されると思った和心は周囲を見回し、側にスーパーマーケットがあることに気がついた。 「ちょっと待ってて! すぐに戻るから!」 和心は急いでスーパーマーケットへと駆けこむと、中にあったゴミを回収する金網のカートを見つけた。 これに乗せれば秤藤を運べると考えた彼女は、カートを手に取って彼のもとへ戻る。 和心が戻ると、秤藤はグッタリと倒れていた。 どうやらまた意識を失ったようだ。 「死んじゃヤダよ! 秤藤さん死なないでッ!」 そんなこと知るかといわんばかりに声を張り上げ、和心は秤藤をカートに乗せてその場から逃げた。
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