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 道路工事の音がヘッドホン越しにも響いてくる。この街の道路工事は終わることを知らない。濃紺のアスファルトの灼けた匂いにはもう慣れてしまった。  僕はファッションビルの前で傘を閉じて、中に入った。  エレベーターで八階に移動し、待ち合わせ場所であるカフェ「Maria Cafe」に入る。店の中を見渡すと、窓際に長い黒髪の女性が座っていることに気付いた。窓の向こうの景色を見ていて、こちらからは後ろ姿しか見えないがそれが七音(ななね)だとわかった。  僕はカウンターでコーヒーを買うと、彼女の座る席へと歩いた。 「お待たせ」  声をかけると七音は僕へと振り返り、「いいよ、急に呼び出したのはこっちだから」と微笑んだ。 「何を見てたんだ?」  彼女の前に座り、僕が尋ねると「別に」と言ってから、 「今日も陰気臭いなぁって思ってただけ」  ガラス越しに見える薄暗い空と街は今日も霞んで見える。陰気臭いというのもわからなくはない。 「ねぇ、久遠(くおん)」 「なに?」 「もうこんな街、抜け出そう?」  遊園地に誘うかのように七音は言った。
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