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すぐに何も答えない僕に「なんで黙ってるの?」と七音は尋ねた。
「言葉の真意を測りかねているから」
「深い意味はないよ。言葉どおりの意味」
「『この街を抜け出す』のそのままの意味……?」
僕はわざとらしく首を傾げてみた。
「いつまでもこの街にいたって何も変わらない。いや、違うかな。変わらないどころか埋もれていくだけだよ」
「抜け出したら何か変わるのかな」
「外から、この街を見たら何か気づくこともあるかもしれない」
「何も気づかないかもしれない。この街にいればよかったと思うかもしれない」
「それも動かないと気づくことができない」
僕が何を言おうとも七音の瞳は揺らぐことはない。親や学校の言いなりになるのではなく、いつも人とは違う生き方を探す、それが七音だ。
もう高校二年生だというのに、幼稚園の頃に家出を企てたあの時から何も変わっていない。
「久遠も抜け出さない? 私と一緒に」
「せめて、あと一年待てば高校を卒業できるだろ?」
僕がため息交じりに言うと七音は首を横に振った。
「貴重な十代を埋もれて過ごしたくないんだよ。ストレスが溜まって爆発しそうなんだよ」
「この街を出てからの何か宛てはあるのか?」
「西に行く」
「西?」
「西の街で自分が何をできるのか探すの。ここにいて気づけなかったことに気づけるような気がする」
「なんだか曖昧だな」
「具体的じゃないと夢ではないって誰が決めたの?」
僕は大げさにため息をついた。梃子でも彼女の意思は揺るがない気がしたからだ。
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