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『猫がじっと空間を見ている時は、人間には見えない何かが見えている』
そんな話を聞いた事がある。大抵の人は「迷信でしょ」と言って信じない。だが猫の網膜層の一番奥にタペタムという反射板があり、光の粒子の一部が網膜を通過しこのタペタムで反射して、人間が見ている光と人間が見えない光が見えるようになっているとか。
それは猫だけじゃなく、犬や猿などにもあると言う。という事は、犬や猿もじっと空間を見つめる時があるという事だ。
暗い場所でも見えたり、明るい場所では空気中の埃や塵、小さな虫などが見えているんではないかという見解だ。紫外線なども見えているらしいが…。
だけど人はなぜ初めにも言ったように『猫がじっと空間を見ている時』と言うのだろうか? ただ単に猫と結びつければ、それだけでミステリアスのように聞こえ、周りを怖がらせる為だろうか?
私にとってはミステリアスでも何でもなく、日常でしかない。家で飼っている愛猫のムサシとコジロウの二匹と同時に、その見えざる者を見て猫達とそれを目で追う。フッと現れては消え、また現れては家の中を飛び回る。それが私と猫達の日常。
友人を家に呼ぶと怖がられ、ついには誰も来なくなった。そして、私が友人の家に行く事も無くなった。大学でも就職した職場でも、見えざる者の姿は目に入る。だがそれを気にしてしまうと、勉強も集中出来なくなり、今は仕事にも影響する。飛び交う黒い影を必死に無視し、私は今仕事を続けている。
愛猫のムサシとコジロウをそばに置き、もふもふとムサシのお腹を撫でながら話しかける。
「君達のようなタペタム……私にはないはずなのに……どうして見えるのかなぁ」
すると突然、黒い影がムサシにスッと入り、
【それは、俺がお前に見せているからだ!】
人の声とは思えない低く恐ろしい声で、猫のムサシが言葉を話した。私は恐怖で声も出ず、とっさにムサシから手を離した。
ムサシは起き上がり、チョコンとそばに座って毛づくろいを始める。いつものムサシだ。私がじっとムサシを見つめていると、ムサシは振り返り、
【よろしくな、涼子】
と、私の名を呼んだ。
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