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儂&初孫 ~トントン~
***
「もうすぐゆた、お兄ちゃんになるな」
「……しらない」
「お母さんも、もうすぐ帰ってくるぞ」
「……うん」
子供用のおもちゃのブロックを一心不乱に組み立てているゆた。 こちらに目もくれず、よく分からない造形物を必死に組み立てている。
「妹に会うのは楽しみとは違うのか」
「……しらない」
「そうか……」
まだ小さい子なりに、自分より下の立場が出来ることに戸惑っているのだろう、そう思った。
「でも、じいちゃんの初めての孫は、ゆただからな。 これからも、ゆたはじいちゃんの湯たんぽ代わりしてくれな。 お前を抱いて寝たらあったかいから、じいちゃんはゆたのこと、大好きだ」
ゆたと湯たんぽと引っ掛けてみたけど、子供には伝わらないだろう。 しかし、ゆたは手を止めた。
「できた」
「これ何?」
「ふね」
「……お、おう、おっきいな。 カッコイイぞ」
とりあえず褒めておく。 ゆたはスッと立ち上がり、背後にまわった。 何かと思えば、肩をトントンと叩き始めてくれた。
「おう、すっごい気持ちいい」
「うん」
「はー……ゆたはやっぱりいい子だな」
「ん。 じいちゃん、すき」
肩を叩かれながら、なぜか孫から告白されてしまった……いや、敬や紗良さんにはよく言っているのかもしれないが。
そして、在りし日の記憶が蘇る。 仕事に明け暮れ息を着く暇もなく、丸っきり家庭を顧みずにいたら、ある日中学生の敬から突きつけられた言葉。
『ふざけてんじゃねぇ、俺はテメェのことなんて大っ嫌いなんだよ!』
「……ゆた……お前、本当いい子だぞ。 大好きだからな」
「ん!」
ゆたが肩を叩く力が、速く強くなった。 気持ちいいを通り越して少し痛いが、今はその痛みが心に刺さった。 なんだか涙腺にきかけたから、無理やりにでも笑ってみた。
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