俺VSクソ親父 ~バッチバチ~

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俺VSクソ親父 ~バッチバチ~

俺は親父が嫌いだ。 『仕事が忙しい』を理由に、家のことは全部母さんに丸投げしてきたような人だ。 たしかに警察官の俗に言う『刑事』という職業上、仕方がないことだったのかもしれないが。 少年時分はかなり寂しい思いもした。 そんな親父も定年で職を退き、今は昔が嘘のようにどっかと家の真ん中に腰を据えている。 親父は過ごすことが出来なかった家族での団欒のひとときを、今更になって取り戻そうと躍起になっているようだ。 しかし、一人息子の俺はもう成人し結婚もしているんだ。 俺には俺の家庭がある。 それなのに。 『おい(けい)、明日は昼から母さんがお茶の稽古がある。 車を出すから、晩はスーパー銭湯に行って飯食うぞ、付き合え』 夜の九時をまわってかけてくる電話の内容がそれか。 俺が会社から帰宅してる時間を見越してかけてきてやがる。 「いやいや! 明日は俺ら、久しぶりに映画を見に行く予定にしてるんだけど?!」 『は? 映画? アホか、そんなもんいつでも見られるだろうが。 明日はいい天気だし、今なら紅葉も綺麗だろう。 母さんがお弁当作ってくれるから、紗良(さら)さんも誘って明日は三人で紅葉狩りだ! 母さんのお茶が終わったら、近くのイーオンにでも行ってのんびりしよう』 実家と俺たち夫婦の家はまさしく目と鼻の先、徒歩三分圏内だ。 母さんが弁当を作るということは昼前から付き合わされ、そして銭湯を指定してくるということは親父たちと過ごす時間は晩まで続く、ということになる。 「新婚夫婦の休日をなんだと思ってやがる?!」 『は、出不精なお前をほっといたら、家でぐうたら寝て過ごすだろうが勿体ない。 紗良さんに愛想尽かされるぞ』 「親父がそれ言うか?! 残業続きでこちとらへばってんだよ、休みくらいゆっくりさせろや!」 後ろで電話を聞いている我が愛妻は、苦笑いしながら頷いてくれている。 うぅ、毎度ごめん紗良、こんなクソ親父で……。 『十一時に家まで来い。 ああ、お前らは手ぶらでいいぞ……ってえぇ? あぁ、そうだな、いや、母さんが晩の着替えだけは持ってこいってな。 それじゃ』 一方的に電話は切られた。 再度かけ直そうとするが、紗良が止めた。 「……喫茶店のパンケーキで許しといたげる。 いちごのモンブランパンケーキ、食べたかったの」 「あ~……映画の後に冬物を見に行く予定だったのにな。 諸々の冬物を見に行くんだと言ったら言ったで、そっちに着いて来られても困るしな……」 頼む紗良、『主人の父親がウザすぎる』と言って離婚案件にあげるのだけは、勘弁してくれ……!
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