序章

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序章

   その街は、国の北側にあった。   一年を通して晴れる日が少なく、山岳を越えて、乾いた風が地に吹き下ろす様な街だった。  いつも住民の頭上には分厚い灰色の雲が広がっていて、それが晴れて、日の光や月の光が街に差し込んでくることは本当に稀だった。  そして。  分厚い雲の下では、街の一角一角に闇が生まれる。  そんな、闇に住まう者がいる。  この街の石畳は、彼らの影を黒々と、大きく写す。  この街のレンガがこんなに赤いのは、血に染まったから。と、人々は噂する。  そんなこの街の名は『モルテ』。  人々が暮らすその影で、今日も路地裏は赤く染まる。
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