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「あんたってば、何? わざとサド怒らせようとしてんの?」 巴の呆れ顔に、 「そんなつもり無いのよぅ…」 そうは言いつつ、我ながら情けないとばかりに項垂(うなだ)れる静香。 遠野への出発当日の朝、 「うっわ、やば!」 目が覚めると、品川駅での集合時間にギリギリ間に合うかどうかの時刻。メイクなど当然する時間もなく、夕べのうちに支度しておいた旅行(かばん)だけを引っ(つか)んでアパートを飛び出してきた。何とか発車時刻には間に合い、今は列車の中である。 「また、変な夢見ちゃって、眠れなくなって、朝方に落ちちゃって…」 「ここであたしに言い訳したってどうしようもないでしょ、そもそも寝坊は言い訳にならないし。サドに直接言いなよ。幸いギリギリ遅刻はしなかったんだしさ、大丈夫よ」 根拠も無い安請(やすう)け合いに、 「そんな事出来る訳ないでしょ、巴が私の立場だったらそれ言えるの? 『遅刻未遂の理由は寝坊です』って」 「えー、無理ー」 深くため息を漏らす静香。 「はぁ…、行ってくるしか、無いか…」 ーーーー 「あの…」 恐る恐る声を掛けるも、佐渡はパソコンから目を離さず、 「何だ」 素っ気なく返す。 「えーと…、すみませんでした、その…、先生や皆さんにご迷惑をお掛けして」 「そこ座れ」 言われるままに、静香は佐渡の正面の席に座る。 「皆本、お前さ、何で俺の講義を受講してるんだ?」 「え?」 「別に民俗学に興味無いだろ」 図星を突かれ、静香は黙った。佐渡はそれを見て、パソコンを閉じ、続ける。 「興味無くても別に構わない。何に興味を持つかは人それぞれだし、俺だって興味の無い分野は沢山ある」 「…」 「さっき配ったフィールドワークのしおり、読んだか?」 「…まだです」 静香の返事に、佐渡が急に声を荒らげた。 「『まだ』じゃねえだろ? ハナっから読む気無えんだろ!? この()に及んでまだ興味あるフリすんのか!? 興味無えなら無えって言えばいいだろうが」 怒声を浴び、静香はビクリと肩を震わすと縮こまって(うつむ)いた。佐渡はすぐにいつもの冷徹(れいてつ)声音(こわね)に戻って続ける。 「興味無い事自体は責めてない。だがな、俺がしてる研究に興味あるフリをして、本当に興味を持って学びに来てる奴らに迷惑かけるというなら、俺はお前を許さない」 ぐうの音も出ない正論に、ここにきて初めて静香は自分の不真面目さが佐渡やゼミの仲間達に失礼極まりないものであったと(さと)る。 「あのしおりな、在村と緒方が何日もかけて作ったんだ。緒方は頑張って挿絵(さしえ)まで描いてた。お前みたいな馬鹿でも見やすく分かりやすくするためにな」
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