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民宿から静香の姿が消えている事に皆が気付いたのは、ゼミの一行が戻ってきてからであった。付近の散歩にでも行っているのだろうと思っていたのだが、夜の8時を回っても帰って来ない事から、生徒の間から、にわかに失踪を疑う声が上がり始めたのだった。 「本当に申し訳ねえ、儂らが目を離したせいだ」 「旦那さんや女将さんのせいじゃありません、お二人には民宿のお仕事があるし、皆本に留意している暇などありませんから」 表情を変えないまま、佐渡が言う。 「先生、探しに行こう」 コートを着込もうとする在村を制し、 「いや、お前達学生が外に出る事は許さん。山深い場所だ、土地勘の無いお前らが闇雲に探しても下手したら遭難する。それに」 佐渡は、ふと表情を曇らせる。 「皆本やお前らにもしもの事があれば、俺はーー」 「先生…」 巴は驚いていた。佐渡が自分達の前でこんな顔をしたのを、見たことがない。 「旦那さん、女将さん、この子らをお願いします」 ダウンジャケットを引っ掴むと佐渡は玄関へと向かう。 「だが先生、あんた一人が探し回ったところでーー」 「俺が2時間経っても戻らない時には警察に通報してください」 言い残すと佐渡は勢いよく外へと飛び出して行った。 「あんな不安そうなサド、初めて見た」 巴の言葉に咲が答える。 「先生は優しい人ですよ。ただ、不器用なだけで」 「うん…、そうだね」 巴とて無意識には佐渡が心根(こころね)の優しい人間である事を理解していたのだろう、だがそれでも親友の安否が不明とあっては落ち着いてなどいられない。 「どうしよう、静香に何かあったら、私…」 「大丈夫、先生が必ず連れ戻してくれます」 咲が巴の隣に寄り添った。
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