1/2
前へ
/25ページ
次へ

「あうぅ…、サドが近づいて来てんの分かってたんなら起こしてよ、もう」 学食のテーブルに突っ伏しながら、静香は親友の木曽川巴(きそがわともえ)に不満を漏らす。 「いや無理っしょ、だってサド、あんたが居眠りしてるの気付いてて、ハナっから注意する為に教壇離れて出向いて来たんだから」 ウスターソースかけ過ぎのクリームコロッケを旨そうに頬張(ほおば)りながら、巴が答える。いつもジャンクな食べ物ばかり食べている印象しかない。 「それよりもさ、単位もらえるの? あとひとつでも落としたらいよいよ留年確定なんでしょ?」 「うん…、取り敢えずサドの今度のフィールドワークには絶対参加、その上でレポート書かなきゃ単位はくれないってさ」 「うわっ、だり」 「ホントよ」 食べながら話す巴が飛ばした飯粒を指でテーブルの下に弾きながら、静香がむくれる。 「ねえ静香、あんた最近午前の講義はいつも眠そうにしてるけどさ、なんかあったの?」 「うーん…、あるっちゃ、ある、かな」 曖昧(あいまい)な返事に、果たして巴は食い付いてきた。 「なになに、フラれた? 太った? ハゲた?」 「そんなんじゃないわよ、あと最後の何よ。…あのね、最近ちょくちょく変な夢を見るの」 「変な夢? どんな?」 「それがさ、あんまりよく覚えてないんだ。とにかく悲しい夢ではあると思う。で、それを見ちゃうと目が覚めちゃって、そのあと眠れなくなっちゃうのよ」 「ふぅん、ストレス溜まってんじゃないの?」 具体的な内容を聞けないと知るや、巴はすぐに興味を失ったような生返事になる。 「そうなのかな?」 「あたしもさ、最近欲しいもの一気に増えちゃって、金欠性のストレス障害発症しちゃってんのよね」 「勝手に変な病名作らないでよ、巴のはただの無駄遣いだから」 「あーあ、富を呼ぶ魔法のお(わん)か、そんなんがあったら一生遊んで暮らせるのになあ」 A定食に付いた汁物の椀を(もてあそ)びながら、巴がため息とともに呟く。 「何? 巴まさか信じてるの? あんなの御伽噺(おとぎばなし)に決まってるでしょ」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加