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「いよいよですね、楽しみです」 緒方咲(おがたさき)が興奮を隠さずに呟く。黒髪の古風な大和撫子(やまとなでしこ)(たたず)まいには多くのファンを持ちながら、自らが立ち上げたオカルト研究サークル「探北会」の代表を務めるほどの、自他共に認めるオカルト好きによって、周囲からは所謂「不思議ちゃん」の評価を得ている。 「河童、天狗、座敷童子(ざしきわらし)に山男。憧れの妖怪パラダイス、遠野に遂に!」 「咲は相変わらずねえ、美人なんだから、変な妖怪趣味さえなけりゃ…」 巴が呟くが、自分の容姿など鼻に掛けるどころか、興味すら無いように、 「今日の講義も本当に素晴らしかったです、中でもやっぱり私は山男の話が断トツに興味深いですね、必ず捕まえてーー」 「ちょ、ちょっと待ってよーー、捕まえる? その、山男を?」 「そうですよ、講義を聞いてなかったんですか? 山男は人を(さら)ったり、姿を見た者を病気にするなどという伝承もありますが、それはどちらかというとレアケースで、多くは酒や食べ物、煙草なんかの些細(ささい)な報酬で出会った人間の手伝いをするんです」 「えっと、つまり…、咲が佐渡ゼミのフィールドワークに参加するのって…」 「勿論、山男に私専用の助っ人になってもらう為に決まってます、妖怪を使役する女子大生なんて、式神を操る陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明(あべのせいめい)並みに凄いじゃないですか」 「ポケモン捕まえるのとは訳が違うよ」 参加者の一人、在村数多(ありむらあまた)が笑う。緒方と同じく、民俗学に深い知識を持ちつつ、オカルトよりも民間伝承や土着信仰に興味を寄せる、佐渡ゼミきっての切れ者で、佐渡教授の学生助手でもある。
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