8人が本棚に入れています
本棚に追加
「いよいよですね、楽しみです」
緒方咲が興奮を隠さずに呟く。黒髪の古風な大和撫子の佇まいには多くのファンを持ちながら、自らが立ち上げたオカルト研究サークル「探北会」の代表を務めるほどの、自他共に認めるオカルト好きによって、周囲からは所謂「不思議ちゃん」の評価を得ている。
「河童、天狗、座敷童子に山男。憧れの妖怪パラダイス、遠野に遂に!」
「咲は相変わらずねえ、美人なんだから、変な妖怪趣味さえなけりゃ…」
巴が呟くが、自分の容姿など鼻に掛けるどころか、興味すら無いように、
「今日の講義も本当に素晴らしかったです、中でもやっぱり私は山男の話が断トツに興味深いですね、必ず捕まえてーー」
「ちょ、ちょっと待ってよーー、捕まえる? その、山男を?」
「そうですよ、講義を聞いてなかったんですか? 山男は人を拐ったり、姿を見た者を病気にするなどという伝承もありますが、それはどちらかというとレアケースで、多くは酒や食べ物、煙草なんかの些細な報酬で出会った人間の手伝いをするんです」
「えっと、つまり…、咲が佐渡ゼミのフィールドワークに参加するのって…」
「勿論、山男に私専用の助っ人になってもらう為に決まってます、妖怪を使役する女子大生なんて、式神を操る陰陽師安倍晴明並みに凄いじゃないですか」
「ポケモン捕まえるのとは訳が違うよ」
参加者の一人、在村数多が笑う。緒方と同じく、民俗学に深い知識を持ちつつ、オカルトよりも民間伝承や土着信仰に興味を寄せる、佐渡ゼミきっての切れ者で、佐渡教授の学生助手でもある。
最初のコメントを投稿しよう!