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「そもそも山男が人間の手伝いをするという逸話は、山を動かしたり湖を作るという巨人の神『だいだらぼっち』伝説と深い関わりがあると思うんだ」
在村は眼鏡を押さえながらそう語る。
ヤマト王権に服わぬ日本の先住民、穢れなどによる差別を受けた民、生まれながらに異形の奇形児など、里から追われ、やむなく山へと移り棲んだ者達が、この日本の影の歴史を作り、またそれらは皇統の正当化や文明の近代化によって人知れず闇に葬られてきた。柳田國男は、そういった表の世界から追われていった者達の「存在の証」を民俗学という形で後世に受け継ごうと、遠野物語ほか多くの著書を残した。
「今で言う巨人症の人間が奇形ゆえに差別を受け、里に居られずに山へと移り棲み、或いは追い遣られ、それでいて時に応じてその怪力から普通の人間に労働力として使役されるという伝承は、そのだいだらぼっちが実は古代の土木や治水に長けた技能集団が神格化されたものであるという背景にあると僕は思ってる」
「興味深いですね、確かに日本の山岳民には、木地師や杣人、百足衆、サンカなど、特殊な技能を持った者達が多いですし」
緒方は目を輝かせて応じ、他の参加者も頷きながら聞いている。が、
「ねえ、あの二人何言ってんの?」
「全っ然分かんない」
小声で囁き合う巴と静香は全く蚊帳の外である。
「一方で山男ってのは、鬼と同一視される事もあるんだ。鬼の正体には諸説あって、山男説の他にも、鬼の伝説が何故か鉱山のある土地に多い事から、製鉄民であるとか、蝦夷や熊襲などの日本先住民説、面白いところでは日本に漂着したロシア人などという説もある」
「マジで? 鬼がウォッカ飲んでボルシチ食べてる姿、なんか笑える」
巴が茶化した。
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