とある団塊世代の四国遍路日記 第一回区切り打ち       写真;佐喜浜から室戸岬方面を望む

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第十一日目 室戸市(BH富士)~第二十六番金剛頂寺~安田(民宿きんしょう) 平成19年11月17日(土)晴れ 32km(48,000歩)  昨夜の雨もすっかり上がり、AM5:00の暁暗の空には星々がキラキラと輝いていた。今日も爽快な気分で朝を迎え、足の方も益々快調である。この分なら高知より先にも十分行けそうであるが、家内との約束もあり今回は高知までに止めざるを得ないであろう。  AM7:10BH富士出発、快調な滑り出しで室戸市の市街地を抜け、2.6kmの「民宿うらしま」のある地点から、山に向かっている。車道が直角に曲がるところで遍路道があり、車道を短絡する形で高度差130mを500mの距離で登ることになる。今日の足なら何でも無いと言いたいところであるが、やはり小休止をはさみながら登ると駐車場に出る。ここより厄除けの男坂、女坂の階段を登ると『第二十六番金剛頂寺』の山門に着くことになる。巨大なわらじが両脇にある山門を潜り、境内に入ると大師が一粒の米を入れて炊くと万倍に増えたと言う『一粒万倍の釜』もある。こんな境内には清閑な風情が漂い、気持を落ち着かせてくれる趣があった。  行当岬の先端には『不動岩』と言う霊場があるとガイドブックに紹介されており、ここへ行くための道へ進んでいる。車1台がやっと通れる狭い道を下るが2度程道に迷い、いよいよ判らなくなって猟をしている人に聞くと、ここより先は迷路の様だと言う。聞いた手前もあり車道をそのまま進むと、やはり岬の反対側に下ってしまうことになった。ここまで来ると引き返すのも大変であり、下り切って国道で岬を廻り込むようにしたが、結局は4km程の遠回りになってしまった。歩き遍路にとっては大いなる労苦であり、腹立たしいことでもあったが、やってしまったことは仕方が無く気を落ち着かせて国道を歩いていた。そんな苦労をした挙げ句の『不動岩』は、霊気の漂うところであり、眼下の荒磯には波が打ち寄せ、岩をくり抜いた洞の中には地蔵尊が祀られていた。  ここより再び国道55号線で海岸沿いに延々とまさに延々であり、歩き続けて道の駅キラメッセ室戸、吉良川町を過ぎると昼時になっていた。そこで、道路沿いにあるドライブインオハラでラーメンを食べていると、4度目の通し打ちと言う58歳の人と会話になった。この人は2年前に初めて四国を歩いた時から会社を退職し、妻の収入のみで暮らしていると言う。いわゆる四国病と言うことになるのであろうか、一度廻ると再び来たくなる気持は、自分も判りかけている。この人も当然の如く野宿であり、その荷物の重さに比べると足は早すぎる歩きである。羽根岬を廻ると大師が修行をしたと言う『御霊跡』があり、先達の僧侶に連れられた70歳代の老人団体が10人程、参拝をしていた。やがて、参拝も終わり、この団体が先発し100m程遅れて自分も歩き始めたが、これが追い着くことが出来ない。このご老人達はどの様な人達なのかと興味もあったが、追い着くのに3km先の奈半利町のはずれまで掛かった。この団体には車が同伴しており、急な体調変化に対処しようとしているものと思うが、この後何度もこの団体に会うが、この車に乗る人はまったく見られなかった。この団体は、奈半利に宿泊した様であるが、自分の宿はまだまだ先である。奈半利川の袂で4度目の通し打ちの人に追い着いたが、二十三士温泉に入り野宿するこの人とはここで別れた。岬を廻り込むと安田川に架かる長大な橋があり、ここより見る山の頂には『第二十七番神峯寺』にある展望台が夕日に照らされていた。この橋より1kmと少しはあっただろうか「民宿きんしょう」に着く頃には日没が間じかに迫り、大海原に落ち行く夕日はまさに絶景であった。「民宿きんしょう」到着PM5:00、早速、洗濯と風呂に入り夕食になったが、あの埼玉のIさんと同宿であった。他に大阪の面白い人と明日帰路につくと言う夫婦と、更に民宿の老夫婦も加わり遍路話に大いに盛り上がった夜であった。ここでは20畳もあろうかと言う部屋に自分一人であり、隣室との襖を外すと大宴会場になるものと考えられる。 【雑感】  現代の交通手段を使うと簡単に行ける所は、そこまで歩くと言う考えを今までは持つことが無かった。昔の人が街道を歩き、何カ国も巡ったと言う事実も何か不可思議に思い、人はどれだけ歩けるのかと言う単純な疑問が常に付きまとっていた。しかし、日数を掛ければ人は歩けると言うことが、自分にも理解出来る様になったのが、この四国遍路である。  考えてみれば昔の史実には、現代の時間の流れで判断出来ない長い時間と日数が掛かっており、これを考えれば史実も理解出来る。ただ、現代人には歩くと言う能力が退化しているのであろうか、悲しいことにこれだけの距離を歩くと、足のマメや膝の痛み、筋肉の張りなどに悩まされる。これらの克服には、少なくとも日頃より歩くと言う習慣を身に付けておくことが必要と、痛切に感じられた日々でもあった。
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