とある団塊世代の四国遍路日記 第一回区切り打ち       写真;佐喜浜から室戸岬方面を望む

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第一日目 第一番霊山寺~第四番大日寺~民宿森本屋(第五番地蔵寺前) 平成19年11月7日(水)晴れ 16km(25,000歩)    JRバス高松エキスプレス鳴門西駅は、高松自動車道の鳴門PA内にあり、ここより陸橋を渡るとへんろみち保存協力会が発行している標識に早速出会うことになる。まことに心強いばかりであり、この後もこの標識をたよりにして歩くことになる。へんろみち保存協会の尽力には感謝ばかりである。  15分ほど歩くと主要地方道12号線沿いにある『第一番霊山寺』に到着した。まずは遍路のいでたちを整えるため、門前の専門店で必需品となる菅笠、白衣、金剛杖、頭侘袋、輪袈裟、経本、納札、納経帳(数珠は持参)を購入した。そこで、昼食のうどんを食べ終えると、当日分のみであるが納札に住所・氏名等の記述を終えた。  霊山寺の門前に立ち仁王門を眺めると、古風な趣があり階上の庇には竺和山と書かれた扁額が掲げられている。また、門柱に掛けられた四国第一番霊場の掛札と潜り門の両脇に釣られた四国第一番霊山寺の提灯が誇らしげに思えた。ここで気合いを入れて大きく息を吸い込み、一礼をして門を潜ると、流石に一番札所であるだけに参拝者が多く華やかな雰囲気を感じる境内である。首に輪袈裟を掛けて本堂に向かい、納め札を納めてから灯明と線香を上げ、賽銭も投入した。そこで、団体の遍路が行き交う中で読経を始めることになった。初めてのことで声は小さくなり、御本尊真言はどれだか判らなくなって抜かしてしまう始末である。後の札所でよく見ると、必ず本堂の脇に掲示されており、以後はこの掲示が見える場所で読経することにした。これで緊張感より解放された思いで寺を後にし、5分ほど歩くと納経を忘れていたことに気が付き、あたふたと駆け戻る体たらくである。納経所では、団体遍路の納経帳がどさっと積まれており何分待たねばと思いきや、歩き遍路だと判ると飛び込みで済ませてもらえることが出来た。これ以後の札所でも同じことが何度もあったが、これは歩き遍路の特権の様に思える。  二番札所へは主要地方道12号線を10分ほど歩くが、一番札所で何かと時間を取られたこともあり、かなりの速さで歩いていると間もなく広い境内を持つ『極楽寺』が現れた。北陸の寒さからすると夏の様な暑さを感じながら、主要地方道12号線を早足で歩いたことに加え、参拝の緊張感が重なって汗がひたたり落ち経本を濡らしていた。この寺には釈迦の足裏を刻んだ仏足石なるものがあるが、目にもとまらず、ただ弘法大師お手植えのどでかい『長命杉』の写真を撮ったのみである。  三番札所へは主要地方道12号線と平行して走る遍路道を歩き、高松自動車道の板野ICよりの取り付け道路を潜ると間もなく『金泉寺』となる。ここでも『弁慶の力石』なるものに気が付かず参拝のみに気を使っている。境内で一服していると、八十八箇所を打ち終え一番札所にお礼参りに行くと言う六十代中頃の人から遍路話を聞き、寺を後にすると再び納経を忘れたことに気付いている。まさに初日は事前の勉強の甲斐も無く、散々な目にあっている。  四番札所へは5kmの道程であるが、遍路道は犬伏と言うところより田んぼ道に入り『愛染院』を経て『大日寺』に至ることになる。この犬伏で休憩していると土地の人より話し掛けられ、徳島自動車道に沿って進んで行くのが早いと教えられた。そこで礼を述べ、この道を歩くことにしたが、これが大変な坂道で山を2つほど越す様な感じでほうほうの体で『大日寺』への入り口道路に着いた。更に、ここから厳しい坂道が続き、途中ですれ違った青年にもう少しと励まされながらやっとのことで到着した。時間は納経所が閉まるPM5:00に迫っており、先に納経を済ませてから参拝を行うことにした。打ち戻りの道で、先程の青年に会い、野宿のテントの側で話しをすると長野市より来たと言う。この青年には、この後、何度か会うことになる。  初めての宿は五番札所近くにある「民宿森本屋」、辺りは既に薄暗くなっており、PM6:00少し前に入り口を開けると、女将さんより「今日は来ないのかと思っていた」と言われ恐縮する次第であった。既に、他の宿泊者の夕食が始まっており遅くなりましたと詫びを述べ、六十代中頃の夫婦・六十六歳でお礼参りの人・五十四歳で埼玉の人(Iさん:この後最終日まで何度も遭遇する)と早速夕食に加わった。ともかくビールが美味く感じられ、遍路道中の話、これからの行程の話等で大いに盛り上がったが、明日の出発を考えると1時間ほどで切り上げた。この後は、洗濯をし、風呂に入るが、パンパンに張った足を揉み解すのみである。12畳もあろうか広い部屋に一人であり、洗濯物を干した後は明日の行程の確認、納札の記述、早速出来たマメの水抜き等で横になったのはPM10:00頃である。今日は、早朝の3:00に起床し列車やバスの乗り継ぎ、そして始めての参拝等で体は相当疲れているはずであるが、なかなか眠りに入れず、ウツラウツラしている内に朝を迎える感じである。 【雑感】  札所での作法は、前記の『四国遍路ひとり歩き同行二人』では、次の様に記載されている。 1.山門で本堂に向かって一礼し、入山する。 2.手水を使って身を清める。 3.輪袈裟を掛け数珠を持つ。(輪袈裟は不浄時以外では、常に掛けている。) 4.本堂で納札、写経を納める。 5.灯明と線香を上げ、賽銭も上げる。(灯明、線香のもらい火はしない。その人の業を貰うため。) 6.備え付けの鐘を打つ。 7.読経をする。   ①合掌礼拝 ②開経偈(一返) ③般若心経(一返) ④御本尊真言(三返) ⑤光明真言(三返) ⑥御宝号 ⑦回向文 ⑧御礼の言葉、合掌一礼 8.大師堂で3.~7.を繰り返す。 9.納経(経を納めた証として、納経帳に宝印、寺名などを記載、押印してもらう) 10.山門で本堂に向かって一礼し、退出する。  しかし、ままならないのが初遍路である。人が側にいると声が小さくなり、祀られている御仏により異る『御本尊真言』は掲示が見つからなければ抜かしてしまう。また、納札を入れ忘れたり、団体遍路に鉢合わせすると読経中に前を通る人がおり立つ場所を途中で変えたりもする。更には、手水や納経の忘れなど、かなり混乱するものである。ただ、気持ちだけは常に誠意を持って努めることが大事であり、これは最後まで変わらなかった。  ちなみに札所とは、昔の遍路ではお札を寺の壁や柱に打ち付けたことに由来し、参拝することを打つとも呼ばれている。
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