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「それホワイト・レディ?アルコール度数が高いけど大丈夫?」
落ち着き払った声が鼓膜を揺らしたのは、脚の長いカクテルグラス傾けた時だった。
躊躇いを知らない白い液体が、喉を通過していく。じんじんと焼けるような熱と、爽やかな後味を残して。
グラスをテーブルに静かに戻しながら、上半身だけ右に捻った。
「ホワイト・レディって名前なんですね。日本語が通じなくて、適当にオーダーしたんです」
ホテル内のバーは思った以上にムーディーだった。物悲しさを悟られまいと、笑顔で相手を見上げる。
無造作な黒髪の隙間から覗く、少し垂れ気味の瞳とぶつかった。
目の前の男だけが、薄明るいライトの中で輝いた。
日本人にホッとしたのか。それとも別の理由からか。自分でもよく分からない。
「君は観光かな?飲みすぎると、翌日に響くから気を付けて」
後ろを通過しようとする男を、注視した。出入り口に向かっていると分かった途端、不思議と胸が締め付けられて。
思わず、ジャケットの裾に手が伸びた。例え軽い女と思われたとしても。それでもクシャクシャにしたチャコールグレーのジャケットを、手放す気にはなれなかった……。
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