15人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
いつかの秋
僕は由緒正しきニホンヤモリ。
この家に住みついて1年目のルーキーさ。
前のすみかは都会のマンションだったけど、大好きな隙間は無いし、昼も夜もうるさいし、繊細な僕は静かな場所へ引っ越ししたんだ。
ここはまぁまぁかな。
寒さを防ぐ隙間はたくさんあるし、ご飯にも困らない。
古い家っていいよね!
この家の主は。
洗い物が上手な真司オスと、いつも笑っている菜々メスのおっちょこちょいコンビだ。
真司はしょっちゅうどこかに頭や肩をぶつけては、変な声をあげている。
昨日はね、足の指をどこかにぶつけたみたい。
クフフ。
涙と鼻水を菜々に拭いてもらってた。
菜々はね、笑い出すと止まらないみたい。
大きなお腹を抱えて、足までバタバタさせて笑っている。
クフフ。
僕もなんだかつられて笑ってしまうよ。
今日もね、暖簾に引っ掛かった真司を見て、菜々が大笑いしているよ。
けどさ、笑い終わると必ず、真司は心配そうに菜々のお腹を撫でるんだ。
優しく、ゆっくりとね。
真司と菜々に、もうすぐ赤ちゃんとやらが増えるらしいんだ。
人間も子孫繁栄、強い遺伝子を残さなくちゃね!
あぁ、お腹すいたなぁ……。
真司と菜々が眠ったら、僕のディナータイムさ。
あと少し、もう少し。
最初のコメントを投稿しよう!