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いつかの春
真司と菜々が住むお家には、由緒正しきニホンヤモリの僕がいる。
大嫌いな冬を越えて、ようやくお目見えといきますか。
その前に豪華ディナーを堪能したいな。
もう、お腹ペコペコだよ……。
夢中になって食べていたから、暗闇から僕を見つめる二つの目玉に気づくのが遅れたんだ。
「ダァ」
そう威嚇されて、僕は慌ててタンスの後ろに隠れた。
なんだ、今のは?
真司と菜々の家に、得体のしれない敵がいる。
しばらく震えが止まらなかった。
食べられちゃうかもしれない。
踏み潰されるかも。
アイツはなんだ?
僕が隠れても敵は、「ダァ」やら「アブゥ」やらますます威嚇している。
そうだ!
真司と菜々は無事だろうか?
まさか食べられちゃった!?
「六花?お腹すいたのかな~」
菜々、無事で良かった!
駄目だよ菜々、そっちに敵がいるよ!
菜々を守る為、僕は勇気を振り絞り飛び出した。
戦うんだ!いざとなったら、必殺尻尾切りだ!
「キャッ……あれ?ヤモリ君?久しぶりじゃない」
菜々は、突然飛び出してきた僕に驚いて目を丸くしているけどさ、僕の方が何十倍も驚いているよ。
菜々の腕にスッポリとおさまって、ニコニコと僕を見ているのが得体のしれない敵なのだから。
「そうか、お初だね。新しい家族の六花よ。ヤモリ君、よろしくね」
えっ……。
家族なの?
つまり、赤ちゃんってやつ?
冬の間に産まれていたのか。
おどかさないでよ、変な奴。
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